※このウェブページは中学校理科2年の学習内容です。<2年p.178>
1|電子と電流
1 電子線
これまでの章で,導線に流れる電流の性質を学んできた。では電流とは何が流れることで生じるのだろうか。
クルックス管と誘導コイルという機器を使い,回路に高い電圧をかけると,クルックス管に図1のような現象が観察できる。これは導線の中にもともとある【電子】とよばれる粒子が,陰極から連続して飛び出し,陽極に向かって流れたために起こる現象である。この電子の流れは【電子線】❶とよばれる。
図3のように,いくつかのクルックス管を使った実験から,電子線には次の特徴があることがわかっている。
① 電子という粒の集まりであり,−の電気を帯びている。
② 直進する。
③ 陰極から陽極に向かう。
④ 途中に入れた電極板の陽極の方に曲がる。
図1の回路は,導線の一部を切り取り,その部分をクルックス管を用いて真空にしたものです。真空にしたクルックス管内では,電子が流れやすくなることにより,ふだんは導線の中にあり見えなかった電子の流れが見えるようになります。
注意!! 実験の際には先生の指示にしたがう。
図1 クルックス管を使った実験
このように電流が空間を流れる現象を【放電】という❷。クルックス管の内部は真空(空気がほぼない状態)であり,このように真空中で起こる放電を特に真空放電という(図4)。蛍光灯などは,真空放電で光っており,このような装置を放電管という。
誘導コイルは高い電圧を発生させるための装置である。誘導コイルの電極と電極の間の短い距離では,空気中で放電が起こる。
図2 誘導コイル
❶ 電源の+極につながっているクルックス管の電極を「陽極」,電源の−極につながっているクルックス管の電極を「陰極」という。電子線が発見されたときは,クルックス管の陰極から出る流れなので陰極線とよばれた。
❷ 雷や蛍光灯の発光も放電現象の一種である。
※このウェブページは中学校理科2年の学習内容です。<2年p.179>
この教科書では,電子の粒を「◯にー」として表しています。
(a)十字形の金属板をクルックス管の陽極側に入れると,十字形の影がガラスにできる。
これは,電子線に直進する性質があり,金属板でさえぎられるためである。
(b) 電子は電極板の陽極に引きつけられる。
クルックス管は,真空放電について調べるためのいろいろな形がある。
図3 クルックス管で電子線を観察する
注意!! 実験の際には先生の指示にしたがう。
クルックス管の代わりに,放電管という装置を使うと,放電管内部の気体の圧力によって色が変化することがわかる。放電管の写真とともに示している「気圧」は,圧力の単位(→ p.201)である。蛍光灯は真空放電を利用した装置で,内部の気圧が非常に低くなっており,内部は導線でつながっていないが,電流が流れると光る。
図4 真空放電
※このウェブページは中学校理科2年の学習内容です。<2年p.180>
2 静電気と電子
冬の乾燥した日に,ドアノブに触れると衝撃を感じることがある。これは,からだとドアノブの間で電子の流れが生じたことが原因である(図5)。
一般に,物質は+の電気と,電子による − の電気を同じ量ずつもっている。ふだんは+と − の電気がたがいに打ち消し合って,物質全体としてはどちらの電気ももっていないのと同じ状態である。
しかし,物質をこすり合わせると,一方の電子の一部がもう一方に移動することがある。このとき電子が移動した先の物質は全体として − の電気を帯び,電子がなくなった方の物質は全体として+の電気を帯びることになる(図6)。このときの電気を【静電気】という。図7の実験から,静電気でも,ごくわずかな時間であれば電流になることがわかる。
図6のように,パイプに静電気をため,小型蛍光灯を触れさせる。
図7 静電気で蛍光灯を点灯させる
この実験では,パイプにたまっていた電子は蛍光灯にすぐに移動して少なくなるので,蛍光灯は一瞬だけ光ります。
※このウェブページは中学校理科2年の学習内容です。<2年p.181>
3 電気の力
中学1年では,さまざまな力の種類の1つとして,電気の力を学んだ。電気を帯びた物質どうしは,たがいに引き合ったり,しりぞけ合ったりすることから,力がはたらいていることがわかる(図8)。この力と電子の関係について,どのように科学的に探究できるだろうか。
探究8 電子にはたらく力
電子は−の電気をもっているね。こすり合わせると電子が移動して,一方が−の電気,もう一方が+の電気を帯びて静電気が起こりやすくなるんだったね。
静電気を起こして,その性質を調べれば,電気の性質もわかりそうだね。
電気にはどのような性質があり,どのような力がはたらくか。
図8のように,プラスチックは紙片を引き寄せるから,何か引き合う力がはたらいているはず。
図6を参考にすると,ティッシュペーパーは+の電気を帯びると考えられるね。
引き合う力があるなら,磁石みたいにしりぞけ合う力もあるのかな。
プラスチックとティッシュペーパーを準備して静電気を起こそう。
プラスチックにたまった電子は−の電気をもっているから,プラスチックどうしを近づけてみよう。
ティッシュペーパーどうしを近づけたらどうなるかな?
❶ 物質によって,−の電気を受け取りやすかったり,放出しやすかったりする。一般にプラスチック(ストローなどに使われるポリエチレンや,パイプなどに使われるポリ塩化ビニル)は − の電気を受け取りやすい。
※このウェブページは中学校理科2年の学習内容です。<2年p.182>
準備
プラスチック製ストロー(曲げることができるもの,2),つまようじ,ティッシュペーパー(2)
変える条件 電子が増えた物体,電子が減った物体
そろえる条件 こする回数,気温・湿度,物体の質量
① ストローAをティッシュペーパーAでこすり,つまようじにのせる。
ポイント
こすったあとの物体どうしは,触れさせない。
② ストローB をティッシュペーパーB でこすり,ストローA にストローB を近づける。
③ストローA にティッシュペーパーA を近づける。
④ストローA をこすったティッシュペーパーA とストローB をこすったティッシュペーパーB を近づける。
㋐ 手順②より, ストローどうしはしりぞけ合う。
㋑ 手順③より,ストローとティッシュペーパーは引き合う。
㋒ 手順④より,ティッシュペーパーどうしはしりぞけ合う。
ティッシュペーパーでこすったストローA,ストローB には,−の電気をもつ電子が集まっている。一方,ティッシュペーパーからは電子が移動して,+の電気を帯びている。
結果の㋐,㋒から,同じ種類の電気どうしはしりぞけ合うと考えられる。結果の㋑からは,異なる種類の電気どうしは引き合うと考えられる。
いろいろな物質の組み合わせで試してみると,−の電気の性質は,もとの物質にかかわらず同じようです。
※このウェブページは中学校理科2年の学習内容です。<2年p.183>
電気を帯びた物体の間に力がはたらくのは,図9に示す性質をもつ電気によって,【電気の力】がはたらくからである。
また,p.179図3(b)で,電子(−の電気を帯びている)が電極板の陽極(+の電気を帯びている)に引きつけられたのは,電気の力が原因である(図10)。
① + と − の2種類がある。
② 異なる種類の電気( + と − )の間には引き合う力がはたらく。
③ + と + ,または − と − のように,同じ種類の電気の間にはしりぞけ合う力がはたらく。
④ 電気の力は,離れていてもはたらく。
図9 電気の性質
+ や - の電気の間ではたらき合う力は,磁石のN極やS極の間ではたらき合う力と似ているね。
そうか。p.179図3(b)で,電子線が曲がったのは,上下の陰極・陽極が帯びた電気の力が原因だったんだね。
図10 電気の力によって曲がる電子線
電子線をはさむように磁石を置き,磁界の中を進むようにすると,電子線は曲がる。
なるほど。p.171で,電流の流れる導線が磁界から力を受けたのは,導線の中を運動する電子が磁界から力を受けたためなんですね。
図11 磁界によって曲がる電子線
発展
電子が磁界の中を運動すると,運動方向や磁界の向きと直角の向きに力を受ける。
※このウェブページは中学校理科2年の学習内容です。<2年p.184>
4 回路の電流と電子
電池や導線の金属の内部には,原子と原子の間を自由に動き回ることのできる電子が多数ある。電池につないでいないとき,電子は金属の原子の間で決まった方向には動いていない。
しかし,回路に電池をつないで電圧をかけると,電子は電池の+極にいっせいに動き出し,全体として電子の移動が起こる。このようにして − 極から+極へ移動する電子が,回路を流れる電流の正体である❶。
電子も,原子のように,何もないところから生じたり,なくなったりしません。電源から出る電子の数と,電源にもどる電子の数は同じになります。豆電球の前後で電流が減少しないことも,電子のモデルで説明できますね。
図12 電流と電子の関係
家庭のコンセントは,電池につながっていないですよね。なぜ電流が流れるのですか?
発電所で生じた電圧が,p.175 図24のように家庭にとどくまでの間に段階的に下げられ,コンセントにまで達しています。その電圧によって,電気器具に電流が流れます。
一方,電池は化学変化を利用して電流を流し続けます。そのはたらきはくわしくは3学年で学びます。
❶ 金属内部の電子が移動する向きと,電流の向きが逆になっているのは,電流が電子の流れであることがまだ明らかになっていない時代に,電流の向きを決めたためである。