Logo
<UDエンジン>

現在,ふりがな・翻訳表示の調整中です。

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.40>

1|仕事

 日常生活では,仕事場で働くこと,荷物を運ぶこと,ものを売ることなどをみな「仕事」といっている。しかし,科学で使われる「仕事」という言葉は,それらとは意味が異なり,物体に力を加えてその力の向きに動かしたとき,力は物体に「仕事をした」という。

avatar

ここからは,物体自体の変化や物体の運動の変化を,「仕事をした・された」という見方・考え方でとらえてみましょう。

 仕事の大きさ

 仕事は,力の大きさと,力を加えながら力の向きに動かした距離によって決まり(図1),次のように定義されている。

$$ 仕事 〔 J 〕 = 力の大きさ〔N〕 × 力の向きに動かした距離 〔m〕 $$

 式の右辺の単位はニュートンメートル(記号Nm)となるが,この単位をジュール(記号J)におきかえて仕事の単位として使う。

$$ 1J = 1Nm $$

avatar

p.270の例題で,仕事の計算に慣れておきましょう。

力の向きに物体を動かした距離を考える。

図1 仕事の定義

avatar

(a)も(b)も,力の向きと物体を動かしている向きが一致していることに気をつけましょう。

 物体を持ち上げる仕事

 地球上のすべての物体には重力がはたらいている。物体をある高さまで最小限の力で持ち上げるには,物体にはたらく重力と大きさが等しくて,向きが反対の力を加えればよい。

 同じ重さの物体でも高い位置に上げるほど,あるいは重い物体ほど,仕事は大きくなる(図2)。

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.41>

図2 物体を持ち上げる仕事を考える

avatar

物体を持ち上げるには,重力より大きな力が必要なように思えます。

いいえ,もしも,物体に加える上向きの力が重力や摩擦力よりも大きければ,だんだん速くなる運動になってしまいます。ゆっくり一定の速さで持ち上げるために加える力は,加わっている力と同じでよいのです。慣性の法則を思い出しましょう。

avatar

 水平面上で物体を動かす仕事

 摩擦のある水平面上で物体を動かすとき,物体には摩擦力がはたらいている。物体をゆっくり一定の速さで動かす仕事をするには,物体にはたらく摩擦力と同じ大きさの力を摩擦力と反対向きに加えればよい(図3)。

図3 水平面上で物体を動かす仕事

 仕事をしていない場合

 力が仕事をするのは,「力を加えながら,力の向きに動かした」ときである。図4のような場合,力は仕事をしていない(仕事が0 J)。それぞれ例をみると,力の向きには物体が動いていないことがわかる。

図4 仕事をしていない場合

avatar

仕事をされた物体は,ほかの物体に仕事ができる状態になることがあります。

avatar

たとえば,仕事をされて運動している物体は,ほかの物体に仕事をすることができます。

仕事をされて高い位置にある物体は,落ちると他の物体に仕事をすることができますね。

avatar

図5 仕事をされた物体

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.42>

 道具と仕事

 私たちは,日常で次のような道具を使っている。これらの道具は,仕事で考えると,運動の向きを変えたり,力の大きさを小さくしたりして,私たちにつごうよく仕事を行わせるはたらきがある。

●てこ

 作用点と支点の距離に対して,支点から力点までの距離が長いほど,物体を小さな力で動かすことができる。てこと同じようなしくみの道具として,輪軸などもある。

(a)基本的なてこのはたらき

 

(b)取っ手の大きい蛇口

図6 てこ

●滑車

 滑車とは,なめらかに回転する円盤に,ロープなどをかけて使うつくりである。

 滑車には, (a)のように固定された 「定滑車」,(b)のように2本以上のひもにつるされた「動滑車」がある。

図7 滑車

●車輪

 一般に水平面上で物体を動かすとき,面と物体の間に摩擦が生じる。車輪を使うと,摩擦力を小さくすることができ,小さい力で物体を動かせるようになる。

     

(a) 車輪を使ったとき

(b) そのまま押したとき

図8 摩擦のちがい

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.43>

 定滑車や動滑車は,一見気づかないが,いろいろなところで使われている。これらのはたらきについて,どのように科学的に探究できるだろうか。

 探究7   道具のはたらき
気づき

avatar

クレーンはよく見るけど,あのぶら下がって上下するのは「動滑車」なんですね。「定滑車」と「動滑車」は,はたらきがちがうのかな?

おもりにはたらく重力と,おもりを支える力がつり合っていると考えると,動滑車と定滑車では,ひもにかかる力が異なるね。

avatar

(a) 定滑車 ひもにかかる力の大きさは,おもりにはたらく重力10Nと同じになる。
(b)動滑車 おもりにはたらく重力10Nを上の2本のひもで支えるため,上のひも1本にかかる力は,半分の5Nになる(動滑車の重さが無視できる場合)。

図9 滑車のはたらき

課題

定滑車や動滑車を使ったとき,物体を持ち上げるための仕事はどうなるか。

仮説

avatar

定滑車と動滑車は,物体を持ち上げるとき,力の向きがちがうね。それがはたらきのちがいだと思う。

「仕事」を考えるときは,「力の大きさ」と「力の向き」に分解して考える必要があるね。

avatar

avatar

図9で,定滑車は天井と一体になっていて動かないので,手で行う仕事にはふくまれません。一方,動滑車は,おもりといっしょに手で持ち上げているので,動滑車の重さは仕事の計算にふくめる必要があります。

計画

avatar

実験用の滑車を使いましょう。

「力の大きさ」をはかるために,ばねばかりがいるね。

avatar

定滑車と動滑車を,どうやって再現しようかな。

avatar

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.44>

方法

準備 

ばねばかり,滑車(2),台車,ひも,ものさし,スタンド

まず方法1で,滑車を使ったときに必要な力がどのように変化するか調べましょう。

avatar

1.滑車を使ったときの力を求める

(a)台車と滑車をひもで下げ,このときの力の大きさをはかる。

(b)定滑車を使って台車と滑車をひもで下げ,このときの力の大きさをはかる。

(c)動滑車を使って台車と滑車をひもで下げ,このときの力の大きさをはかる。

avatar

(a)は道具なしのとき,(b)は定滑車を使ったとき,(c)は動滑車を使ったときの力の大きさを調べているんだね。

(a)(b) で,台車といっしょに滑車を引き上げているのは,(a)(b)(c) で条件をそろえるためだね。

avatar

avatar

ばねばかりは,(a)のように引き上げるときも,(b)のように引くときも使うことができます。

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.45>

2.引き上げるひもの長さをはかる

(a)台車と滑車を20cm引き上げるとき,ひもを引いた距離(印が何cm上がったか)をはかる。

(b)定滑車を使って台車と滑車を20cm引き上げ,ひもを引いた距離をはかる。

(c)動滑車を使って台車を20cm引き上げ,ひもを引いた距離をはかる。

仕事の式でいう,「力の向きに動かした距離」がどこになるか気をつけましょう。

avatar

結果


 ポイント 

① 方法1で,(a)(b)(c)それぞれの力はどうなったか。

② 方法2で,(a)(b)(c)それぞれ引き上げるとき,ひもを引いた距離はどうなったか。

③ 方法2で,(a)(b)(c)それぞれの仕事はどうなったか。

結果を表にして,定滑車,動滑車には,それぞれどのような特徴があるか,まとめてみましょう。

avatar

考察


 ポイント 
 

滑車を使ったときと使わないときで,何が変わり,何が変わらないか。

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.46>

 探究7   結果から考察する
結果

(台車1kg,滑車100gの場合)

(a)(b)で台車と滑車を単に20cm上に持ち上げるときの仕事は,

  11 N × 0.2 m = 2.2 Nm = 2.2 J

 である。

(c)では,ひもを引く力が5.5 Nで,ひもを引いた距離は0.4 mであった。ここから,仕事は

  5.5 N × 0.4 m = 2.2 Nm = 2.2 J

 である。(a)(b)(c)で仕事は変わらない。

図10 探究7(c)の結果例

考察

(b)定滑車は,物体を持ち上げるために必要な力の向きを変える。

(c)動滑車を使った場合,ひもに加える力は半分になっているが,力を加えてひもを引いた距離は2倍になっている。このことから,動滑車を使ったときも使わないときも,ひもに加える力がする仕事は同じ大きさである。

● 動滑車を使うと,必要な力が小さくなる分,物体を動かす距離が長くなるので,仕事は同じになるということがわかった。

avatar

(b)の場合,物体を引き上げるために必要な力は(a)と変わらない。でも,実際の荷物や定滑車で考えると,下向きに力をかけるときに,自分の体重を加えることができるよね。すると,物体を持ち上げるのが楽になるね。

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.47>

 仕事の原理

 仕事をするとき,動滑車や斜面,てこなどの道具を使うと,物体を動かすために加える力を小さくすることができる。しかし,力を加えて動かす距離が長くなるため,物体に対する仕事の大きさは変わらない。このことを【仕事の原理】という❶。

 仕事率

 図11のように,荷物をビルの上まで持ち上げる仕事をするときに,エレベーターを使うと,人が運ぶよりも短い時間で行うことができる。人が運んだときとエレベーターで運んだときとでは,仕事の大きさは同じでも,仕事をする速さ(仕事をする能率)が異なる。

 一定時間(1秒間)当たりにする仕事の大きさを【仕事率】といい,次のように定義されている。

$$ 仕事率〔W〕=\frac{仕事〔J〕}{かかった時間〔s〕} $$

 式の右辺の単位はジュール毎秒(記号J/s)となるが,この単位を【ワット】(記号W❷)におきかえて仕事率の単位として使う。

$$ 1W = 1J/s $$

p.271の例題で,仕事の原理,仕事率の計算に慣れておきましょう。

avatar

図11 仕事の大きさは同じでも能率が異なる例

探究7(b),(c)で,仮にひもを引く速さが等しいとすると,仕事の大きさが等しくても,仕事率が変わります。

avatar

仕事は,

11 N ×0.2 m =2.2 Nm =2.2 J

ひもを引く速さは10cmあたり1秒だった。

そのため,20cm引くのに2秒かかった。

このときの仕事率は

2.2 J ÷2 s =1.1 W

仕事は,

5.5 N ×0.4 m =2.2 Nm =2.2 J

ひもを引く速さは10cmあたり1秒だった。

そのため,40cm引くのに4秒かかった。

このときの仕事率は

2.2 J ÷4 s =0.55 W

図12 仕事率の考え方

❶ 仕事の原理は,摩擦の影響がない場合に成り立つ。

❷ ワット(記号W)は電力の単位でもある。電力は,1秒間に消費される電気エネルギーの大きさを表す。(中学校2年)

gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.247>

資料 クレーンは動滑車がポイント

 クレーンは,図のように,動滑車と定滑車がたくさん組み合わされています。これによって,多数のワイヤーで荷物を支えることになり,実際の荷物の重さよりずっと小さな力で荷物を引き上げることができます。下図の場合,6本のワイヤーで支えているので,6分の1の力でものを持ち上げられます。

クレーンの動滑車のしくみ
クレーン車
gkt-horizontal-line

※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.247>

資料 てこと輪軸は同じしくみ

 てこを使うと,小さい力で大きい力をおよぼすことができます。これは,てこを下図のようにして使うとき,次の関係がなりたつからです。

力点にかける力の大きさ × 力点と支点の距離 =  作用点に生じる力の大きさ × 作用点と支点の距離

 たとえば,力点と支点の距離:作用点と支点の距離=4:1であれば,力点にかける力:作用点に生じる力=1:4になり,4分の1の力でものを動かすことができます。また,力が4分の1になったかわりに,動かす距離が4倍になるため,ものを持ち上げるときの仕事の原理はなりたっています。

 輪軸は,大小の輪が組み合わさった道具です。大きい輪に力を加えて回すと,小さい輪に大きな力が生じます。このはたらきによって,ドアノブ,ドライバー,車のハンドルなどは,中心の軸を力強く回すときに,手で加える力を小さくてすむようにしています。

 下図のように,輪軸の場合も,力点,支点,作用点を考えると,てこの場合とまったく同じ原理がはたらいています。また,滑車やてこと同じように,ものを持ち上げるときの仕事の原理はなりたっています。

(a)てこのしくみ
(b)輪軸のしくみ

ニュース

※科学ニュースの更新は2025年4月を目処にはじまります。

  • 【大人の方がすべり台で速度が出るのはなぜか? 大学生が研究】 2023年3月1日
    大人になってから久しぶりに「すべり台」をすべってみたこと,ありますよね? 子供の頃よりもスピードが出て,驚いたのではないでしょうか。 大人と子供では体重が違うから……,と考えがちです。しかし,物理の法則で考えると,同じ条件のすべり台を大人と子供がすべったとしても,動摩擦力は質量に比例し速度と逆方向を向くので,すべり下りる物体の加速度は質量に依らず一定になるはずです。生活体験と物理の法則が矛盾してしまうのです。 ネットなどを探すと,空気抵抗で説明している記事が多いのですが,実はこの場合,空気抵抗は無視できるほど小さいとわかっています。では,この矛盾,あなたならどう説明しますか? もと記事リンク 論文
  • 【爆笑しながら物理法則を楽しむ本】 2023年3月1日
    引っ越し,面倒くさいですよね。引っ越しの手間を減らすために,この本で物理の法則を使えばこんな解法が…と出てくるのはすべて,論理的には可能だけれど,あまりにもバカバカしいアイデアばかり。「どれもご家庭で試さないでください」と注意書きがあるものの,そんなこと考えつくやつも試そうとするやつもいるはずないだろう! というネタ揃い。ゲラゲラ笑いながら,日常に潜む物理法則を楽しむことができます。なお,この本の内容はほんとうに,絶対に試さないでくださいね。 『ハウ・トゥー バカバカしくて役に立たない暮らしの科学』 ランドール・マンロー 著, 吉田三知世 翻訳 早川書房 2020年1月 ¥1,760(税込) ISBN:978-4-15-209909-9 もと記事リンク
  • 【原木シイタケのほだ木をハンマーでたたくと収量が倍増,理由は不明】 2023年3月1日
    シイタケは,ほだ木に振動を与えると発生量が増えるということが経験的に知られていました。近年,寒い時期の収量が減っていることから,大分県農林水産研究指導センターは安全かつ簡易にシイタケの増収ができる条件を調べました。その結果,キノコ(子実体)が発生する2週間前に,ほだ木に散水してから樹皮を表裏5回ずつ,計10回ハンマーで叩くと,収量が2倍ほどに増えることが分かりました。なぜ叩くとキノコが増えるのか。メカニズムはよく分かっていません。 もと記事リンク

読み取り中...