物体が落下するとき,重いか軽いかにかかわらず落下する速さが同じになることは,教科書にも掲載されている有名な現象です(3学年p.245)。落下する物体の重さと速さの関係は,16世紀にガリレオ・ガリレイによって実験的に確かめられて後,現在にいたるまで,不変の真理として受け入れられてきました。
ところが実際には,子どもと大人がいっしょに滑り台で遊んでいると,先に滑った子どもに,後から大人が追いついてしまう…といったことが往々にして起こります。立教大学による研究では,この点に着目し,ローラー式の滑り台において,画像処理型変位計測技術を使った調査が行われました。その結果,重い物体ほど滑り台を速く滑ることがわかり,その理由としては,「速度や質量によらず一定値をとる」はずの動摩擦係数が,実際には「速度や質量に依存している」可能性があることが示唆されました。これ以外にも,ローラー式滑り台では,重さが終端速度にも影響を与えることも判明しました。
しかし一方で,一般的な金属板の滑り台では速度への影響が見られず,動摩擦係数が一定であることと矛盾しない結果が得られました。つまり今回の結果は,上記のような変数以外にも,ローラーの回転運動に使われるエネルギーや,その回転運動にともなって発散される熱や音のエネルギーも厳密には考慮する必要がある,ローラー式の滑り台のみで見られる限定的な現象である可能性があります。とはいえ,教科書に掲載されるレベルの有名な現象に対しても,実体験をもとに見いだした疑問から一石を投じるという本研究の姿勢は,見習うべきものがあるといえるでしょう。
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