生物のもつ優れたつくりやはたらきを研究・応用した技術は,生物模倣技術(バイオミメティクス)とよばれ,注目を集めている分野です。生物模倣技術の対象は,他の生物にとどまらず,人間自身にも向けられることがあります。
ヒトの骨は,内骨格としての高い強度をもつ材質です。骨の高い強度は,おもに外側の硬い「皮質骨」によって実現されています。皮質骨は,その内部にバームクーヘンのようなだ円形の管状構造をもち,衝撃を受けて亀裂が生じた際,このバームクーヘン構造に沿って亀裂の進行を外側へと逃がすため,骨全体が一度に砕けるような破壊は起こりにくいという特性があります。米プリンストン大学の研究チームは,この構造を模倣し,新たなセメント系建材を開発しました。
従来のセメントブロックは,強度を高める際には,セメント以外の材料を追加する手法が一般的でしたが,今回の研究では,セメント自体で人間の骨の構造を再現することによって,耐久性を向上させました。すなわち,ヒトの骨のように,内部にだ円形の空洞を設けることで亀裂の拡大を防ぎ,衝撃のエネルギーを分散させるしくみです。その結果,亀裂に対する耐久性が従来のものと比較して約5.6倍向上しました。
また,この新構造は,空洞を設けることでセメントの使用量を削減できるため,作成時に出る温室効果ガスの排出低減にも貢献します。研究チームはこの構造の他素材への応用を視野に入れ,さらなる可能性を探っています。
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