少し前ですが,ビデオデッキやラジカセなどの磁気テープを利用する機器と異なり,現在のレコーダーなどでは,『早送り』はあっても『巻戻し』は使われていないと聞いて,目を丸くしたことがあります(いまは『早戻し』の語が使われているようです)。たしかに,光学ディスクや半導体を使用した記憶装置においては,テープ時代の『巻く』という表現は何の関係もないので当然なのですが,長らく使われていた言葉がなくなってしまうことについては,何となく寂しさを感じてしまいます。ところが近年では逆に,磁気テープを使った最先端の技術によって,ひょっとすると『巻戻し』も復活をとげるかもしれません。
現代では,高画質の4K・8K映像や,ビッグデータと連携する生成AIの台頭により,デジタルデータの保存量は増加の一途をたどっており,これまでと同様の保存様式では不足が見込まれるようになっています。そこで,日米の企業が開発を進めている,大容量かつ低コストの磁気テープが注目を集めています。これは従来の磁気テープと同様,薄いテープ状のフィルムに粉末状の磁性体が乗っているもので,記録機器の磁気ヘッドを通過する際に磁気を変化させることで情報を記録するものです。アナログなテープのイメージに反し,従来のハードディスクよりも小型・大容量化に成功しており,ランニングコストでも上回るうえ,エラー発生率が低く,50年以上劣化しないという特性ももっています。この進化の背景には,原理はかつてと同じであっても,テープに散りばめる磁性体粒子のサイズ縮小や磁気特性の強化,より均一に磁性体粒子を分散させる技術の向上など,さまざまなくふうがあります。また,テープフィルム自体の素材もより薄く,じょうぶなものとなっていることもポイントです。
現在のところ,利用には専用ドライブが必要となり,導入コストがかかる問題はあるものの,磁気テープの復活とともに『巻戻し』の語がまた聞かれる日も訪れるかもしれません。
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