「オランダの涙」とよばれる,驚異的に頑丈なガラス細工を聞いたことがあるでしょうか? オランダの涙は,「ルパートの滴」ともよばれ,名前の通りに涙のような形をしたガラス製の物体であり,その存在は17世紀から知られていました。加熱してとかしたガラスを水中に落として急冷するだけという,きわめて簡単な方法で作成できるにもかかわらず,その強度は圧倒的で,銃で撃たれると銃弾のほうが砕け,プレス機にはさまれるとプレス機のほうがへこんでしまいます。
この強度をもたらしているのは,「圧縮応力」という力が,ガラスの表面でつねにはたらいているためです。オランダの涙は,前述の通り,加熱した液化ガラスが水中で急冷されることでつくられますが,このとき,水と接するガラスの表面が先に冷え固まります。内部はその後,少し時間をおいて徐々に冷え固まることで体積が小さくなろうとするのですが,すでに表面が固まってしまっているために小さくなりきれず,固まった表面を内部に向かって強く引っ張る力がはたらくことになります。この,“内部のガラスが表面のガラスを強く引っ張る力”に対し,“表面のガラスがもとの形を維持しようとする力”が,圧縮応力です。この力が強くはたらき続けるため,オランダの涙は,外部からの力に対して強固にもとの形を保つことができます。この圧縮応力は,最大で700MPa(大気圧の約7000倍)にも達するとの研究もあります。
オランダの涙には,もうひとつ興味深い性質があり,「涙」の形の尻尾部分を折ると,ガラス表面と内部にはたらく力のバランスが崩れ,瞬間的にこなごなに破壊されてしまいます。この破壊は最大で6840km/hもの速度で伝わり,まるで一瞬でちりとなるように見えます。
これらの独特な性質が関心を集めることも多く,動画サイトやSNSなどでは実験のようすが多数共有されているほか,日本でも学校で実際につくってみた事例が数多く見つかります。つくり方や強度を確かめる実験は誰でも簡単にできるものですので,ぜひ実際に体験してみてください。
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