動物が『より高い場所へ登る』ことは,えさや安全な生息場所を確保する必要のある自然界では大きな意味をもっています。高所でからだを固定する動物は,教科書でも紹介されているように(3学年p.225),指先の微細な毛で強い吸着力を発生させるヤモリのなかまが有名ですが,まったく異なるしくみで高所に登る動物もいます。
米カリフォルニア州やオレゴン州のセコイアの森に生息するハイカイキノボリサンショウウオは,最大88mもの高さで生活する能力があります。この動物は,四角形に広がる特徴的な指先の構造をもっています。この指先にある血管のようすを可視化して撮影したワシントン州立大の研究によると,指先には「血洞」と呼ばれる空間があり,この空間を活用していることが判明しました。登る際には,流れこむ血流量が減少することで,指が柔軟になって木の表面にフィットし,グリップ力を強化します。一方で,指を離す際には,血液が急激に流れこみ,膨張することで摩擦力が低下し,スムーズな離脱が可能になります。ふつう,強く吸着するために特殊なしくみを備えそうなイメージがありますが,この動物は真逆の発想で高所へと登ることを可能としていることが明らかとなりました。
この独特な機構はエネルギーの節約や効率的な移動に貢献していることが示唆され,また,人間にとっても,ロボット工学や義手・義足といった医療技術への応用が期待されます。
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