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卵が割れやすい向きは縦?横?

ゆで卵をつくるとき,沸騰したお湯に卵を入れると,卵は予想外に水中で割れてしまい,白身がお湯の中に――。科学の常識を見直すことで,こんな痛ましい事故も減らせるかもしれません。
これまで卵は,縦向きのほうがじょうぶで割れにくく,横向きの力が加わると簡単に割れてしまうと直感的に考えられてきました。しかし,米MITの研究者が改めてデータを精査したところ,縦と横とで明確に割れやすさが異なるという結果は出ていないことが判明しました。そこで,“卵の落下方向による割れやすさのちがいを定量的に調べ,直感と実際の物理的性質の食いちがいを明らかにすること”を目的に,本格的な研究が始まりました。
研究では,2種類の実験が行われました。1つ目は静的圧縮試験で,これは,卵を固定してゆっくり押しつぶし,殻にひびが入るまでに要する力(硬さ)や殻の変形のしやすさ(強さ・しなやかさ)を測定するものです。この実験では,卵の向きによる強度のちがいはほぼなく,どちらも約45Nの力で割れることが確認されました。しかし,横向きの卵は縦向きの場合よりも大きく変形し,衝撃を吸収しやすいことがわかりました。すなわち,同じ45Nという力の大きさであっても,仕事量は横向きのほうが大きいといえます。一方,さまざまな高さから一定の向きで落下させ,割れるかどうかを比較する動的落下試験では,縦向きに落とした卵は,横向きに落とした卵よりも低い高さで割れやすいという結果が得られました。これら実験から,横向きの卵は,縦向きの卵よりも約30%大きいエネルギーを吸収できることが判明しました。
直感に反するこのような結果は,力の受け止め方のちがいにあると分析されます。つまり,縦向きの卵は,一方向から力が加わると殻全体ががっちり踏ん張って硬く抵抗しますが,その反面,急な衝撃にはもろい性質があります。硬くて変形しないぶん,ひとたび限界を超える力がかかると割れてしまうのです。それに対し,横向きの卵はよりしなやかで,力を受けると殻が少したわみます。その『たわみ』こそがクッションの役割をし,殻全体に力を分散させてくれるのです。
本研究は,硬さ・強さ・しなやかさという,日常では混同されがちな物理的性質のちがいを明確にし,直感的な現象であっても科学的に検証することの重要性を示したものであり,誰もが疑わずに信じていた定説をデータで検証し,くつがえしてみせた点で大きな意義があります。

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