長距離の移動を行うことで季節に応じて生息地域を変える「渡り」の行動は,ツバメなどの鳥類が有名ですが,ごく限られたチョウのなかまにもこの行動をとるものがいます。日本に生息するアサギマダラは,渡りを行う代表的なチョウで,その生態がさまざまな手法で調べられています。
これまで,アサギマダラが渡りを行うときには,上空の高層でふく風を利用していることが推測されてきましたが,直接観測の難しさもあり,実際に確かめられてはいませんでした。そこで,鹿児島県立博物館による研究では,ごく近年にマーキング・再捕獲がなされたアサギマダラのデータと,そのときの気象データを合わせて活用し,長距離移動と気象条件の関係を分析しました。
調査によると,2023年11月12日に屋久島でマーキングされた個体が,19日に沖縄県中城村で再捕獲されたことが確認されました。この個体は,高度1km以下の大気境界層内で移動しており,飛翔速度は10〜55km/hと推定されます。特に11月14日・15日の気象条件が移動に適していたことから,屋久島から直接沖縄へ飛翔したか,14日に奄美群島で休息し,15日にふたたび移動した可能性が考えられます。この移動パターンとチョウ自身の飛翔速度を考慮すると,追い風の影響があったことが強く示唆されました。
アサギマダラの渡りについては,より多くのマーキング調査のデータと気象データの活用,あるいはシミュレーションなどの手法により,さらなる解明が期待されています。