外来種は,人間の活動によって,もともと生息していなかった場所でくらすようになった生物を指します。“人間の活動によって”というのがポイントで,自力では移動できない生物であっても,他地域の外来種となってしまう可能性があるということです。このような生物には植物だけでなく,固着性の動物もふくまれています。固着性というのは,一定の場所にからだを固定し,動かずにくらす動物の性質です。
代表的な固着性の動物であるフジツボは,船の外壁に貼りついてしまうことがあります。きわめて強い固着性のため,一度貼りつくと容易にはとることができず,船の移動中ずっと貼りついたまま,他地域に拡散されてしまう問題が指摘されています。また,大量に外壁に貼りつくことで,船の燃費を下げたり,排水などの機能を損なわせたりすることも問題視されます。フジツボの付着を防ぐには,有毒な重金属をふくむ,防汚剤とよばれる塗料を外壁に使用するといった方法がありましたが,付着を防ぐだけにとどまらずフジツボを殺してしまったり,流出して海洋を汚染してしまったりというさまざまな問題がありました。
岡山大学などの研究グループは,天然由来で海洋を汚さない,安全な付着阻害剤の化学合成に成功しました。この物質は「スカブロライドF」といい,自然環境ではサンゴの一種から得られる物質です。物質そのものは知られていましたが,安定して大量に確保することが難しく,実用性には乏しい状態でした。研究グループは,実に6年がかりでスカブロライドFの化学的なつくりを突き止め,合成に成功しました。その後,フジツボの幼生の固着性に対する,化学合成したスカブロライドFの効果を調べたところ,この物質の入った水中では,幼生の死亡率は上がらずに,固着を行わないことが確認されたとのことです。
今後は,この研究成果を基盤とし,効果的で安全な,環境に優しい新たな付着防汚剤が開発されることが期待されます。研究チームは,「化合物を道具として生物付着の問題解決に貢献したい」と述べています。
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