※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.250>
資料 無性生殖にも欠点がある
無性生殖をする生物には,1つの個体だけですぐにふえることができるという長所がある。では,無性生殖に短所はないのだろうか。歴史上有名な事件を紹介しよう。19世紀のアイルランドでは,ジャガイモが主な食物だった。ところが,このころ,ジャガイモがすぐに腐ってしまう病気が広まってジャガイモが保存できなくなり,大ききんが起こった。
この原因は無性生殖の特徴と関係していた。当時も今と変わらず,ジャガイモは,いもの無性生殖でふやしていた。そのため,もとになったジャガイモの形質が,そのまま子孫のジャガイモに受けつがれたのである。ところが,もとになったジャガイモには,ある病気に弱いという形質があり,ふやしたジャガイモはその形質を受けついでいた。その結果,ジャガイモが同じ形質ばかりになり,病気が広まりやすくなってしまったと考えられている。
無性生殖では,子孫の形質が親と同じになるため,このような短所がある。一方,有性生殖では,子孫の形質がさまざまになり,それらの中には環境の変化に耐える個体がいる可能性がある。一般的なジャガイモの種類は花をつけても種子ができないが,本来ジャガイモも有性生殖により種子でふえる。
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資料 農業を変えた無性生殖「接ぎ木」
ある種類の植物の一部を別の種類につなぎ合わせる「接ぎ木」という技術を用いると,2種類の植物の長所をもった木や苗を,たくさん作ることができます。
たとえば,病気に強い形質をもつ種類を土台として使い,花がさいて果実のできる枝は,味のよい形質をもつ種類を使って育てます。この方法は,1930 年前後から日本の一部の地域で実用化されはじめたといわれています。近年では,スイカの94%,キュウリの93%,ナスの79%,トマトの58%が接ぎ木栽培で育てられ,海外でも急速に普及しています。
接ぎ木は現在の私たちの食料を支える大切な技術になりました。
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発展 シダ植物,コケ植物の有性生殖は精子と卵細胞が関わる
シダ植物やコケ植物は,生殖するときに,しめった場所や雨などの水が必要である。それは,これらの植物が精子をつくり,その精子が水中を泳いで卵細胞にたどりついて受精が起こるからである。
一方,被子植物は,進化の過程で花粉管を伸ばして受精するようになったことで,シダ植物やコケ植物とは異なり,乾燥した地域でもふえることができるようになった。
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資料 クラゲは無性生殖でふえる
植物では,有性生殖と無性生殖の両方を行うものが少なくないが,動物の中にも両方を行うなかまがいる。
ミズクラゲはその一例である。クラゲは,図のように,透明なかさのような形のからだを水中にただようようすがよく知られる。このすがたには,雄と雌の成体があり,雄が水中に出した精子を雌が体内に取りこみ,受精卵ができる。
受精卵が細胞分裂をくり返して成長すると,岩などに付着して生活するポリプとよばれるすがたになり,さらに,ストロビラとよばれるすがたに変化する。これらの状態では,からだが複数に分かれてふえることができる。やがて水中にただよう雄と雌がいる成体のすがたになると,再び有性生殖を行う。
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資料 古来からの品種改良
私たちが育て食べている農作物や家畜の種類は,もともと野生にいた種類(原種)から,人間の手が加わることでつくられてきました。生物の性質を,人間が希望するように改良することを「育種(品種改良)」といいます。
たとえば,さまざまなウシの中で,希望する形質(成長がはやい)をもつ個体がいたとします。その個体を選び繁殖させて,さらにその子の中から,希望する形質がよく現れた個体を繁殖させます(図(b))。これをくり返し,長い時間をかけて,現在の種類がつくられてきました。
近年の遺伝子組換え技術は,より短期間で直接的に育種をすることができる方法です。ただ,この技術では,自然に起こる生殖では考えられない形質をもつ種類をつくることもできます。もし,これらの種類が自然界にはなたれると,予想しない影響が生じることも考えられるため,遺伝子組換え技術の利用には注意も必要です。
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資料 ある地域で採取した生物を自然に返すとき,もとの地域に逃がす理由
メダカの「体色」という形質には黒色と黄色があり,黒色が顕性の形質です。野生のメダカの体色は黒色で,観賞用メダカ(ヒメダカ)は,まれに見られる黄色の体色の個体を人間が選んでふやすことをくり返してつくられた種類です。
遺伝子AA(黒色)をもつ野生のメダカと,遺伝子aa(黄色)をもつヒメダカの間で子孫ができると,右の図のように,孫の段階で本来の野生のメダカと同じ遺伝子を保っているのは,AAの1個体だけになってしまいます。
これは,その種❶や地域固有の個体が減ることにもつながるので,買った生物を野外に逃がしたり,採取した場所以外に生物を逃がしたりしてはいけません。
❶ 「種」は,生物を分類するときの基本的な単位で,共通した特徴をもつ個体の集まりを指す。また,同種間では生殖可能な子を残すことができる
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資料 DNAはどのようなすがたをしている?
DNAは糸状で,さらに細かく見ると,下図のように二重らせん構造をしている。そして,その中には4種類の物質が対になってならんでいて,このならび方が「遺伝子」とよばれる情報となり,生物の形質が決まる。
ヒトの場合,すべてのDNAの中には,約2万個の遺伝子があることがわかっている。ヒトのはじまりである1つの受精卵にふくまれるすべてのDNAが,細胞分裂のたびに正確に複製されて,最終的にはからだをつくる約60兆個の細胞すべてに,すべてのDNAがふくまれることになる。DNA内の4種類の物質のならび方にもとづいて細胞の中でタンパク質がつくられ,私たちの生命が維持されているのである。
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発展 再生医療への期待
● 失ったからだを再生できるイモリ
「幹細胞」とは,細胞分裂が可能で,かつ,さまざまな種類の細胞になる能力をもっている(分化できる)細胞である。動物の場合,受精卵は,からだのどのような組織,器官にもなれる万能な幹細胞である。しかし,一般にこの能力は,胚が成長するにつれて失われてしまう。幹細胞は,いったん特定の細胞に分化すると,幹細胞にもどることはない。
ただし例外も知られている。イモリは,あしを失っても,切り口からもとの形と機能をもったあしが再生する(図(a))。これは,傷口周辺の細胞が,分化した状態から,幹細胞に変わることができるためである。
●iPS細胞の発見と医療への応用
ヒトの受精卵からできた胚の一部を取り出して培養したものは,さまざまな組織や器官に成長させることができ,「ES細胞」とよばれる。ES細胞の医療への応用が考えられたが,ヒトの受精卵を使うことから倫理的な問題があった。
山中伸弥教授らは,ES細胞の能力をもたらす遺伝子を研究する中で,ヒトの皮ふの細胞にいくつかの遺伝子を入れる遺伝子組換え技術により,その細胞が,からだのさまざまな細胞になる能力をもつようになることを発見し(2007年),この細胞をiPS細胞(人工多能性幹細胞)と名づけた。
iPS細胞の技術を用いると,ある組織の細胞から,別の組織や器官をつくり,患者に移植する治療(再生医療)が実現する。また,iPS細胞からつくったヒトの組織は,開発中の薬の効果や副作用の研究に利用することもできる。
現在,世界中の機関・企業がiPS細胞を使った再生医療の実用化を目指し,その中でも日本では先進的な研究が行われている。たとえば,目の組織,肝臓の組織,神経の組織をつくって移植したり,血小板をつくって輸血したりするなどの研究であり,一刻も早い実用化へ向け,取り組みが続けられている。
(b) iPS細胞を使った再生医療
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.255>
資料 論争をよんだ進化論
進化の考えをまとめ上げて発表したのは,イギリスの生物学者ダーウィンです。彼は,1831年から世界各地の生物や化石の調査を行い,進化の考えにつながるアイデアを思いついたといわれています。そのなかでも,ガラパゴス諸島の動植物の観察が,大きなヒントになりました。
1859年,ダーウィンは,それまでの調査などをもとに「種しゅの起源」という本を出版します。その本で,「生物は長い時間をかけて世代を重ねるうちにすがたが変わる」という考えを発表しました。これは,当時の社会で大きな論争となりましたが,しだいに受け入れられていきました。
ダーウィンの考えは,現在の進化の考え方に受けつがれています。
ダーウィンは,ガラパゴス諸島の動植物は,南米大陸のそれらと共通点が多いが,異なってもいることに注目した。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.256>
資料 植物も進化してきた
陸上に最初に現れた植物は,コケ植物やシダ植物です。シダ植物には維管束があり,維管束で地中から水を吸い上げることで,コケ植物よりも乾燥に耐えられます。その後,シダ植物の一部が,さらに乾燥に耐えられるしくみをもった裸子植物に進化し,裸子植物の一部が被子植物に進化したと考えられています。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.256>
資料 定義が変わるとき
科学的な言葉は,それがどのような意味か定義されています。定義がしっかりしていなければ,議論もあいまいになってしまうからです。研究で事実が集まり,その解釈が変わっていくとき,定義も変わることがあります。最先端の分野で,ということがほとんどですが,中学校の理科の教科書でもときどき影響します。
たとえば,この教科書では,シソチョウは羽毛恐竜に近い特徴をもつ鳥類だという説にもとづいた説明をしています(→p.95)。しかし,ここ数十年で多様な羽毛恐竜が発見されたことで,恐竜類と鳥類を分類する観点や基準,いわゆる定義について,これまでとは異なる説もとなえられるようになり,今後シソチョウの位置づけも変わる可能性があります。それにともなって,シソチョウに関する教科書の説明も変わるかもしれません。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.257>
発展 生物の進化の道すじを図に表す
最初の生物は約40億年前に誕生した細菌のような生物だったと考えられている。現在生きている推定1000万種類ともいわれる多様な生物のすべては,最初の生物が進化することで現れた。
この進化の道すじを調べようとしてさまざまな研究が行われている。下の図は,現在考えられている進化の道すじ(系統樹という)の例で,それぞれの生物のグループの近い遠いの関係を示している。系統樹は,主にそれぞれの種類の形態や遺伝子を比較することでつくられていて,最初の生物を“根”として,これまで学習してきた微生物,植物,菌類,動物は,図のような関係にあると考えられている。ただし,研究が進むにつれて,系統樹の形は変わっていく。特に,この図に表していないより細かい部分は,まだ一致した意見がなく,今後の研究によって変わっていく可能性が高い。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.258>
発展 ウイルスってなにもの?
●細菌
細菌は単細胞生物であり,細胞質の外側に細胞壁をもつ。細胞質と核という区別がない(ヒトなどの多細胞生物や,2 学年で学んだミカヅキモなどの単細胞生物の細胞は,両者が区別できる)。
●ウイルス
一般にウイルスは,自らのはたらきだけではふえることができない。生物の細胞に取りついて,その内部に入りこみ(感染して),その細胞の中でウイルスがふえ,細胞外に出てゆく。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.258>
資料 微生物が食品をつくる
食品が腐ると人体に害のある物質(毒素)ができることが多く,食べられなくなります。これはカビやブドウ球菌など(菌類や細菌類)が食品を分解しながら増殖したことによります。しかし,菌類や細菌類の中には,毒素をつくらず,食品を加工する上で役に立つものも多くあります。
納豆は,大豆に納豆菌(細菌のなかま)を加えてタンパク質を分解させうま味となる物質(アミノ酸)をつくらせています。また,大豆に麹菌(カビのなかま)を加えると味噌やしょうゆ,牛乳に乳酸菌(細菌のなかま)を加えるとヨーグルトやチーズ,ムギやブドウの果実に酵母(細菌のなかま)を加えるとビールやワインというように,さまざまな菌類や細菌類のはたらきで多くの食品(発酵食品)がつくられています。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.259>
発展 「食べる・食べられる」の関係と動物のすがた
生物の多くはたがいに「食べる・食べられる」の関係にあり,一部には捕食者から狙われづらいすがたが見られる。
ある種類は,風景の中にとけこむような色やもよう(保護色)があり,見分けられづらい。一方,たとえば毒針をもつハチのなかまは,その多くが目立つ色やもよう(警戒色)をもち,たがいによく似ている。このすがたによって,毒をもっていることが捕食者に気づかれやすく,狙われづらい。また,毒のない昆虫にも,ハチによく似たすがたをもつ種類がいる。
このように,生物がほかの生物やものに似ることを擬態という。
上の写真は,動物のすがたを示す目的であり,実際の大きさは考慮していない。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.259>
発展 窒素も循環する
細菌類は,多細胞生物とは異なるさまざまな化学変化を起こして生命を維持しており,物質の循環に重要な役割を果たしている。たとえば,タンパク質にふくまれる重要な成分である窒素も,主に細菌類のはたらきにより生態系の中を循環する。
植物のマメのなかまの根には「根粒菌」という細菌類が共生している(図(a))。根粒菌は,大気中の窒素を植物が利用できる窒素の化合物(無機養分)に変えるはたらきがある。一方,土中の細菌類の一部は,死がいにふくまれる窒素の化合物を気体の窒素にまで分解して,再び大気にもどすはたらきがある(図(b))。