※このウェブページは中学校理科1年の学習内容です。<1年p.91>
2|蒸留
私たちが利用するガソリンや灯油などは,地中から取り出した原油(p.194図22)が原料である。原油は,さまざまな液体の成分からなる混合物であり,沸点のちがいをもとにそれぞれの成分を分離している。
混合物からそれぞれの成分を取り出す方法について,どのように科学的に探究できるだろうか。
探究7 混合物を分ける
ここに水とエタノールの混合物があります。この混合物から,エタノールだけを取り出すにはどのようにしたらよいでしょうか。
どちらも液体で,ろ過することはできないね。
水とエタノールの混合物から,エタノールを取り出すにはどうしたらよいか。
エタノールと水は,沸点がちがうね。
混合物を加熱して エタノールの沸点に達したら,エタノールだけが沸とうするのかな?
エタノールだけ沸とうさせようとしても,少しは水が混じってしまうのではないかな。
エタノールが沸とうしているのか,水が沸とうしているのか確かめるには,まず沸とうした気体を集めなければいけないね。
水もエタノールも無色透明だね。集めた気体がどちらなのかを確かめるには,どうすればいいだろう。
※このウェブページは中学校理科1年の学習内容です。<1年p.224>
資料 石油を蒸留する
地中からくみ上げられた石油は原油とよばれ,沸点がちがういろいろな有機物が混ざった混合物です。
石油精製工場に運ばれてきた原油は,ガソリン,灯油,軽油,重油などのさまざまな石油製品に生まれ変わります。
石油精製工場では,原油を350℃に加熱して気体にし,蒸留装置(精留塔)の中にふきこみます。蒸留装置は,図のように内部が複数のたなでしきられていて,この中にふきこまれた原油は冷えて液体になります。このとき,液体になる温度(沸点)が高い成分は下のほうのたなで,沸点が低い成分は上のほうのたなで,液体となります。
このようにして,沸点のちがいによって,原油から有用な成分を分けて取り出しています。
※このウェブページは中学校理科1年の学習内容です。<1年p.92>
準備
水,エタノール,大型試験管,試験管(3),試験管立て,ガラス管,ゴム管,ゴムせん,スタンド,ビーカー,デジタル温度計,加熱器具,蒸発皿,メスシリンダー(2),ピンセット,ろ紙,マッチ,沸とう石,軍手,保護めがね
1.混合物を加熱する
メスシリンダーで水9cm³とエタノール3cm³をはかって混合物をつくり,大型試験管に入れる。
写真のような装置を組み,混合物を弱火で加熱する。
ポイント
温度計の先をガラス管の先にそろえて,出てくる気体の温度をはかる。
注意!! 出てきた気体に火を近づけてはいけない。エタノールは火がつきやすい。
注意!! ゴム管が熱くなっているので,軍手などで持つようにする。
注意!!
ガラス管の先が,たまった液体の中に入らないようにする。
温度計の先をガラス管の先にそろえるのはどうしてですか?
ガラス管の先を,たまった液体から 離しているのはどうしてですか?
ここでは混合物の沸とうする温度を,試験管の口のあたりの気体の温度で代表させて,はかっています。
火をとめると管の中の空気が急に収縮します。このとき,ガラス管の先が液体の中に入っていると,液体を吸い上げます。試験管の中の液体の量によっては,大型試験管の中にまで液体が逆流します。すると,加熱されていたガラスが,逆流してきた液体で急に冷やされて割れることがあるのです。
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2.出てきた液体を集める
試験管に液体が約2cm³たまるごとに温度を測定し,試験管をかえ,ア〜ウの順に3本の試験管に集める。
注意!! ゴム管,ガラス管が熱くなっているため,試験管を入れかえるときは注意する。
試験管に約2cm³の液体がたまったときの液面の位置を,水を使ってあらかじめ知っておきましょう。試験管が斜めになるので,それも考慮に入れます。
3.出てきた液体を調べる
ア〜ウの試験管にたまった液体を,それぞれ,①②のようにして調べる。
注意!! 手であおぐようにしてにおいをかぐ。
ポイント
試験管ア,イ,ウについて,表の項目を記録する。
ポイント
試験管ア,イ,ウにたまった液体には,それぞれ何が多くふくまれていると考えられるか。また,その理由は何か。
デジタル温度計の値を1分おきに読み取ると,温度変化がよりよくわかります。
※このウェブページは中学校理科1年の学習内容です。<1年p.94>
探究7 結果から考察する
試験管アの液体はエタノールの性質が強く,試験管イの液体はエタノールの性質が少し見られた。試験管ウの液体は,エタノールがふくまれているかわからない程度だった。
試験管アには,エタノールを多くふくむ液体が集められたことがわかる。このことから,沸点の低い物質と沸点の高い物質の混合物を加熱すると,まず沸点の低い物質が多く取り出せるといえる。
※このウェブページは中学校理科1年の学習内容です。<1年p.95>
1 蒸留
液体を沸とうさせて得られた気体を集めて冷やし,再び液体を得る操作を【蒸留】という。蒸留を利用すると,液体の混合物から沸点のちがいによって,それぞれの液体を分けて取り出すことができる。
図16は,水とエタノールの混合物を加熱したときの温度変化を示したグラフである。このように,混合物の沸点は,決まった温度にはならない❶。
探究7で,時間ごとの温度の変化を記録すると,このようなグラフになります。②の状態(探究7のア)で出てくる気体はエタノールを多くふくみ,③の状態(探究7のイ)で出てくる気体はエタノールが少なくなります。
❶ 混合物の融点も決まった温度にはならない。
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資料 物質の性質を粒子のメガネで見る
1-2単元では,物質の性質を粒子モデルで考えるという見方・考え方を身に着けました。物質は,種類によって異なる性質の粒子でできています。物質の性質を粒子のふるまいで考えてみましょう。
小学校で,とじこめた空気は押し縮めることができますが,水は押し縮めることができないことを学びました。これは,気体は粒子のすき間が大きく,押し縮められますが,液体は粒子のすき間がほとんどなく,それができないためです(a)。
ほかにも,蒸発と沸とうのちがいは(b)のように説明できます。なお,液体の表面だけでなく,固体の表面からも気体になる状態変化は起こります。
また,探究7で,エタノールを得られる割合が変化したことは,(c)のように説明できます。
(b)蒸発と沸とうのちがい
(c)混合物の蒸発
※このウェブページは中学校理科1年の学習内容です。<1年p.96>
SDGsを意識して脱炭素社会へ 二酸化炭素はワルモノか
探究4で二酸化炭素の性質を確認しました。あなたは,二酸化炭素というと,どのような印象をもつでしょうか。地球温暖化の原因で悪い物質?毒?二酸化炭素を出してよいのでしょうか?
わずかであっても二酸化炭素を出さない,というのは科学的な考え方ではありません。それより,探究を通して,みなさんが二酸化炭素の存在を正しく知り,将来科学的な対策を考えられる人になることを期待されています。
たとえば,石灰石約1gに塩酸を加えた実験で発生する二酸化炭素は約0.4g。一方,私たちが呼吸により排出する二酸化炭素は1人当たり1年間で約360kg。そして,化石燃料を使用することによる二酸化炭素排出量は,日本人1人あたり1年間で約8000kgと,規模がまったくちがっています。
二酸化炭素は,空気中にもともとあり,熱を保つはたらきがあります。そのため,地球があたたかく過ごしやすい気温に保たれている原因のひとつでもあります。ただし,私たちが膨大な量を発生させて,地球温暖化が進んでいることは問題です。
何となくの印象ではなく,事実や規模のちがいにもとづいて問題を考えていきましょう。
発展
大気中の二酸化炭素の濃度は,年ごとに高くなっている(図18)。この濃度の増加の原因として,石炭や石油・天然ガスなどの化石燃料の大量消費,世界的な規模での森林の減少などが考えられている。
一方,地球の年平均気温は,少しずつ上昇している(図19)。これを「地球温暖化」といい,その原因の1つとして二酸化炭素の濃度の増加が考えられている。本来二酸化炭素は,植物などが十分に吸収してつり合いが保たれていたが,現在はちがう。つり合いが急にくずれることが問題になっているのである。
地球温暖化が加速すると,農作物を育てづらくなったり,大きな自然災害が増えたりすることが予想される。そのため,世界的に対策が取られている。
❶ 出典:気象庁ウェブサイト資料「二酸化炭素濃度の経年変化」
❷ 出典:気象庁ウェブサイト資料「世界の年平均気温」
※このウェブページは中学校理科1年の学習内容です。<1年p.97>
SDGsを意識して脱炭素社会へ SDGsと脱炭素社会
SDGsってなに?
SDGsとは,「持続可能な開発目標」の略称です。2015年に国連で採択された,これからの世界で生きていく人々が考えながら進めていく目標で,消費社会から持続可能な社会への変革を目指します。右図のような世界共通の17の目標があり,これらの目標を,2030年までの15年間で達成することを目指しています。
これらの目標は,国や公共団体であつかうものも多いのですが,一人ひとりができることもたくさんあります。興味ある目標について自分で調べて,できることから始めてみましょう。
7.すべての人が,電気やガスなどのより新しいエネルギーを,安い価格で安定して使えるようにすることを目指す。
12.すべての国が,一人当たりの食品廃棄量を全体で半分に減らすこと,有害な物質が大気・水・土に流れ出すことを食い止めること,3R(ゴミを減らす,再利用する,資源化すること)を進めることを目指す。
13.気候の変化がもたらす危険や自然災害に対する備えを強化し,災害に強く,災害から回復する力を高めることを目指す。
14.有害物質による海の汚染を防ぎ,健全で生産的で持続可能な海洋および生物の利用と再生を目指す。
15.陸の生物を保護し,持続可能な方法で利用することや,森林をきちんと管理し,再生させることを目指す。
脱炭素社会ってなに?
「脱炭素社会」とは,「化石燃料に頼りすぎている現状を見直す社会」という意味です。SDGsとも重なり,今,日本をはじめとする世界各国は脱炭素社会を目指しています。
化石燃料は,大昔に地層中にたくわえられた炭素がもとになっている有機物で(p.55),炭素が多くふくまれます。それを燃やすと二酸化炭素が大量に空気中に排出されます。
脱炭素社会をつくるために注目されているのが,植物のはたらきです。植物は,二酸化炭素を吸収して,からだをつくります。仮に,化石燃料を使わず,木を増やして,木を燃料とした発電だけを行うとします。すると,木を燃やして出る二酸化炭素は,もともと空気中にあった二酸化炭素なので,空気中の二酸化炭素は増えません(図中①)。
さらに,木材を建物や家具などに使用すれば,炭素は木材の中に存在したままになります。すると,空気中の二酸化炭素は減っていくことになるでしょう(図中②)。このように実現していくのが脱炭素社会です。
とはいえ,課題も数多く残っています。私たちは,その課題に対し,たくさんの新しいアイデアを生み出し,解決していかなければいけません。このときに,科学的な知識や考え方がたいへん役に立つのです。