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※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.135>
理路整然 どうする,科学なのに矛盾?
塩酸のもととなる塩化水素HClは,酸素をふくまないのに,その水溶液は「酸性」とよばれます。一方,水酸化ナトリウムNaOHは酸素がふくまれるのに,酸性とはよびません。用語とふくまれる元素が矛盾しているように思えます。
昔から,果汁や酢など,すっぱい味のする物質があることは知られていて,それは「酸」とよばれました。ラボアジェ(フランス,1743〜1794年)は,酸の原因となる物質を考え.それを「酸をつくるもと」という意味で「酸素」と名づけました。また,このころ「水をつくるもと」であると考えられていた物質に対して「水素」という言葉も使われていました。
やがてアレニウス(→p.123)の研究により,酸の原因は水素であることがわかります。そのときは,酸素も水素も物質の名前としてすでに定着していたため,酸素という言葉をわざわざ水素と入れかえることはしませんでした。
同じようなことは,電流と電子の流れの関係にもいえます。電流の向きを電池の「+極から-極」と決めたあとで,電子の存在が明らかになり,金属中の電流が「-極から+極」に流れる電子であるとわかりました。しかし,電流の向きの定義は,工業などのさまざまな分野に広まっていたので,電流の正体に合わせて,わざわざ逆にすることはありませんでした。
このように,歴史的に,言葉の定義よりも現象の事実解明があとになり,用語や決めごとに違和感を感じることもあります。しかし,科学の理論そのものに矛盾があるわけではありません。