他の星を地球に似た環境に人工的につくり変えることを,テラフォーミングといいます。太陽系の隣の惑星である火星は,テラフォーミングの最有力候補とされていますが,現時点では人類の居住には適していません。これは,火星の平均気温が-60℃と低く,水が液体の状態で存在できない(※)ことが,大きな理由のひとつです。また大気の状態は,気圧が地球のおよそ150分の1しかないうえ,成分の組成が地球とは大きく異なり,酸素が0.13%程度ときわめて少なくなっています。
この環境を人が住めるものとするためには,まず,火星をあたためることが第一となります。そのため,過去には小惑星を衝突させて温室効果ガスを得る方法や,地球から持ち込んだフロンガスを大量に排出して温暖化を図る方法などが提案されましたが,いずれも現実的ではありませんでした。そこで,米ノースウェスタン大学の研究チームは,現実的な方法として,人工ナノ粒子を生成し,この粒子を大気中へ拡散させることで温暖化を促進する方法を提案しました。この方法がこれまでのものより”現実的”といえる理由は,地球からの持ち込みによるものではなく,もともと火星に存在している,ごく小さな塵(ちり)を利用する点にあります。研究チームは,火星の塵は,そのままでは温度を下げる効果がありますが,約9μmの短い棒状の粒子へと加工して特定の形状や大きさに揃え,上空へと放出・拡散することで,温暖化に役立つことを発見しました。棒状の微細粒子は熱を閉じ込め,太陽光を火星の地表へ散乱させることで,表面温度を30℃以上上昇させる可能性があるそうです。
ただしこの方法には,地球の年間金属生産量の3,000分の1に相当する,微細粒子の大規模な製造工程が求められ,また,継続的な放出も必要となるため,現時点での実現はまだまだ難しいといえます。それでも,研究チームによれば,この方法は従来の火星温暖化案より5,000倍以上効率的であり,火星移住への一歩となるアイデアであると報告されています。
※火星の水は地下に氷の状態で閉じ込められていますが,近年,地下深くに液体の水が発見されたとの報告があり,研究の進展が待たれています。
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