わたしたちの多くが毎日,人によっては毎時間,毎分のように目にするスマホですが,電源を落としているときにはおそらく,画面は例外なく『黒色』かと思います。スマホをはじめ,モニターやテレビなどのディスプレイ装置では,素の状態でどれだけ反射光を抑えた黒色とできるかが,鮮明で美しい画面をつくりだすための鍵とされています。また,分光分析装置といった精密機器の内部では,理想的には完全に無反射の黒体材料が求められます。これまでも『黒さ』だけでいえば99.9%以上の光を吸収する材料は見つかっていましたが,非常にもろく,利用した製品化には難がありました。黒さを追求することと,製品利用が可能なじょうぶさを両立することは,容易ではありません。
この2点を両立するため,国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)では,2019年に,表面にごく微細な円錐状の凹凸を形成することで光を閉じ込める構造を実現した黒体材料「究極の暗黒シート」を開発しました。このシートは,さわっても性能が損なわれず一般環境で使用できるため,大きな反響を得ました。しかし「究極」では,わたしたちが目にする可視光域の反射率は0.3~0.5%程度にとどまっており,さらなる研究が望まれていました。光の反射率が0.1%を下回ると,ヒトの目でもわかるくらいに深い黒色となるといわれています。
「究極」を上回ることを目指し,産総研では,可視光も強力に吸収する「至高の暗黒シート」を開発しました。原理は「究極」と同じですが,素材を見直すことで,実に99.98%という圧倒的な黒さを実現しました。どのくらい黒いかというと,レーザーポインタを当てるとポイント部分が消えてしまうというので,もうよくわかりませんがとにかく『黒』です。もちろん,さわっても性能が損なわれず,製品利用が容易である利点はそのままです。また,このシートに使われた黒色樹脂が,日本の伝統技術である漆塗りの代替品として使われていたものであることも興味深い点といえるでしょう。
今回開発された「至高」の材料は,光学機器や映像の一層の品質アップに貢献すると考えられます。研究チームは,今後は具体的な用途開発や技術移転を進め,光を制御する技術の向上に寄与していく予定としています。
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