国立科学博物館らの研究チームが,腐った肉のようなにおいを出す植物の不思議な能力の秘密を突き止めました。このにおいは,昆虫を誘い込み,花粉を運ばせるのに役立つ,巧妙な生存戦略です。このようなにおいを出す植物には,有名なラフレシアやショクダイオオコンニャクだけでなく,日本の身近な植物であるカンアオイのなかまも知られています。
研究チームは,カンアオイ50種の遺伝子情報を調べ,においのもとが「ジメチルジスルフィド」という物質であることを特定しました。また,より深く調べることで,このにおいのもとを合成する特別な酵素「SBP」を発見しました。この酵素をつくる遺伝子を解析した結果,たった2つ,または3つのアミノ酸が置き換わるだけで,においを出す能力が進化したことが明らかになりました。さらに驚くべきは,このにおいを出す能力が,カンアオイとは縁遠いザゼンソウやヒサカキといった植物でも,それぞれ独立して進化していたことです。そして,これらの植物はすべて,似たような遺伝子の変化によって同じ酵素をつくる機能を獲得し,においを生み出していたのです。
このような例は,収斂進化(しゅうれんしんか)とよばれる現象です。この現象は,同じような環境にくらす異なる種類の生物が,似たような能力を独自に獲得することで,その環境へと適応することを指します。現象自体はよく知られており,たとえば,カマキリとミズカマキリはまったく異なるグループの昆虫ですが,どちらも“獲物をとらえる”という1点で,ほぼ同じ鎌状の前あしを獲得していることが挙げられます。今回の発見は,収斂進化の謎を遺伝子のレベルで解き明かした点でたいへん価値があり,今後は代表例として教科書にも掲載され得る重要な成果であるといえます。
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