過酷な訓練を突破した宇宙飛行士であっても,心を落ち着けるコーヒーブレイクは大切な時間です。しかし,宇宙の無重力下では,地球上と同じ方法でコーヒーを飲むことはできません。これは,表面張力という力がはたらくことによって,飲料などの液体は,無重力下では宙をただよう球体となってしまい,宇宙船内の精密機器に飛び散ると深刻な故障の原因となるからです。そのため,宇宙飛行士が飲み物を飲む場合には,専用のパックとストローを使う必要があるのですが,そうするとコーヒーを楽しむ際に重要となる,香りやマグカップを傾ける動作といった要素が損なわれてしまうという問題がありました。
そこでNASAは,スペースカップ(またはキャピラリーカップ Capillary Cup)とよばれる特殊なカップを開発しました。このカップは,毛細管現象※を利用したもので,重力がなくても液体が飲み口に流れるしくみになっています。これにより,宇宙でもカップを傾けてコーヒーをすするという,地上と同じような体験が可能になりました。従来のパックとは異なり香りも楽しめるほか,慎重に注げば液体がこぼれる心配もありません。現在では陶磁器製のタイプも登場しており,宇宙であっても,少しでも地球上に近い環境でほっと一息つける工夫がなされています。ちなみに,このカップは,NASAが特許を取得した初めての製品となるそうです。
今度コーヒーを飲むときには,宇宙で同じようにくつろぐ飛行士たちの姿をぜひ思い浮かべてみてください。
※液体が,細い管や繊維のすき間のようなごくせまい空間を,表面張力や付着力とよばれる力によって吸い上げられる現象。管やすき間がせまいほど強くなる。
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