英語のpoison(ポイズン)は,日本語では『毒』と訳されますが,venom(ベノム)という語も同様に『毒』と訳されます。これは,日本語の『毒』はからだに悪い化学物質全般を広く表すのに対し,ポイズンは“接触するなどして体内に取り入れることで作用する毒”で,ベノムは“キバや針などで体内に送りこまれることで作用する毒”という違いがあるからです。そのため,毒ヘビを表すときにはベノムの語が正しい※のですが,『ポイズン』をもつめずらしいヘビが日本に暮らしています。
本州や四国,九州に分布するヤマカガシは,ポイズンとベノムの両方をもつ,日本固有のヘビです。他の毒ヘビのように,キバから毒を送りこめることに加え,毒をもつカエルを食べることで,その毒の成分を体内に蓄積し,首元の毒腺から分泌して防御に利用しています。この毒は,からだを活発に動かすことができない低温時にも,捕食者を寄せつけない効果があります。攻守に隙がありません。これらの毒は非常に強く,人体に対しても効果があり,日本国内では1917年以降,29件の咬傷例が報告されています。死亡に至るケースは稀なものの,出血や,血液が固まる作用が阻害されるなどの症状が起こることが知られています。
このようなポイズン+ベノムの『二重』の毒をもつヘビは,ヤマカガシに近いなかまで数種類が見つかっていますが,世界中で4000をこえるヘビの中でも非常に希少な存在です。
※生物学的には明確な違いがあるものの,一般には厳密に区別されておらず,毒ヘビを“poisonous snake”と表すこともできる。
もと記事リンク(外部サイトに繋がります。公開から時間がたつと繋がらない場合があります)