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5|からだが動くしくみ
1 運動器官
動物は外界からの刺激に対して,からだを動かして行動すること(反応)で生命を維持している。動物が行動するときにはたらく,手やあし,ひれ,つばさなどを【運動器官】という。運動器官は主に骨格と筋肉からできていて,これらが複雑にはたらき合うことで,動物はしなやかな動きができる。
2 骨格
ヒトのからだには約200の骨があり,それらの骨はたがいに合わさって【骨格】をつくっている。骨格は,背骨(脊椎)を中心に構成されていて,からだを支えるとともに,からだを動かすはたらきをしている(図29)。背骨は,多くの骨がつながったつくりをしているため,からだをねじったり曲げたりできる。また,骨格には内臓を保護したり,内臓の位置を支えたりするはたらきもある。
(a)骨格のはたらき
(b)背骨の動き
図29 ヒトの骨格のはたらき
1年生で学んだ「脊椎動物」は,「脊椎」を中心とした骨格をもっていることから名づけられています。
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3 関節と筋肉
うでやあしを曲げたり伸ばしたりするとき曲がる場所は,骨と骨とのつなぎ目で,この部分を【関節】とよぶ。また,骨につく筋肉の両端は,【けん】というじょうぶなつくりになっていて,関節をまたいで別べつの骨についている。
図30 筋肉によるうでの動き
4 運動と筋肉
からだを動かすとき,筋肉が動いたり,盛り上がってかたくなったりする。これは筋肉が縮んだりゆるんだりすることを表している。ひじやひざの場合,関節を曲げるための筋肉と伸ばすための筋肉が対になってはたらき,一方の筋肉が縮むときには,もう一方がゆるむことで関節が動く(図30)。
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5 感覚器官
ヒトの場合,光の刺激は目でとらえ,空気の振動は耳❶で,空気中の物質は鼻で,食物中の物質は舌でとらえる。皮膚は,温度や圧力などの刺激をとらえる(図32)。こうした周囲からのはたらきかけ(刺激)を受け取る器官を【感覚器官】という。
6 刺激を受け取るしくみ
それぞれの感覚器官には,刺激を受け取るための特別な細胞【感覚細胞】があり,脳から伸びてきている神経とつながっている。感覚細胞が刺激を受け取ると,刺激は信号に変えられ,神経を通して脳などに伝えられる。信号が脳に伝えられると,光や音,においなどの感覚が生じる。
視覚
聴覚
聴覚・味覚
触覚
図32 感覚器官
❶ 耳には,からだの傾きや回転を把握するはたらきもある。
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7 神経系
刺激を受けるときにはたらく感覚器官と,反応するときにはたらく運動器官は,神経でつながっている。神経は【神経細胞】という糸のような突起をもつ細胞の集まりで,脳や脊ずい(脊髄)も神経細胞が集まってできている器官である。神経は全身にはりめぐらされて,感覚器官と運動器官などをつないでいる。
脳や脊ずいと全身の神経をまとめて【神経系】という。神経系は,脳や脊ずいからなる【中枢神経】と,そこから枝分かれしている【末しょう神経】とに分かれている(図33)。
右の図は太い主な神経を示している。神経はからだのすみずみに行きわたっている。
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刺激が信号に変えられて反応が起こるまでには,神経や脊ずい,脳といった器官を通り,このとき,ある程度時間がかかる。これについて,どのように科学的に探究できるだろうか。
刺激にはいろいろな種類があるね。それに対する反応もさまざまだね。
刺激と反応の例をあげてみよう。
探究7 反応が伝わる経路
外界の刺激を感覚器官で受けて運動が起こるまでには,何が起こっているのでしょう。
感覚器官で刺激を受けると,感覚神経に信号が伝わるんだよね。
感覚器官と運動器官は,脳や脊ずいを通じてつながっているんだよね。
感覚神経から運動神経までの経路がわからないね。
刺激を受けてから反応するまで,どのような神経の経路をたどり,どのくらい時間がかかるか。
たとえば「ボールがきたらそれをつかむ」場合を,刺激と反応で考えてみよう。
「ボールのすがたを目でとらえる」が「刺激」,「手を使ってそれをつかむ」が「反応」と考えよう。関係しているのは末しょう神経だね。末しょう神経は,脊ずいから出ているんだったね。
ということは信号は必ず脊ずいを通るんじゃないかな?
光や音,においなどの感覚が生じるのは脳だったよね。信号は必ず脳を通るんじゃないかな?
刺激を受けてから反応するまでの時間をはかれないかな?
図33を参考に,信号がどの神経を伝わるか,モデルをつくってみよう。
刺激と反応の組み合わせはいろいろあるよね。それぞれの場合をモデルで考えてみたいな。
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観察A 意識して起こる反応にかかる時間を求める
準備 ストップウォッチ
① 最初の人は,となりの人の手をにぎると同時にストップウォッチをスタートさせる。
② 手をにぎられた人は,すぐに次の人の手をにぎる。
③ 最初の人は,最後の人に手をにぎられたらすぐにストップウォッチを止める。
④ かかった時間を人数で割り,1人当たりの時間を求める。
ポイント
刺激を受けてから反応するまでの,1人当たりの時間を求める。
ポイント
刺激を受けてから反応するまでの信号の経路を,モデル図をかいて考える。
この実験の場合,関わる感覚器官と運動器官は何だろう。
感覚神経と運動神経は,どのようにつながっているかな。
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実習B ひざをたたいたときに,あしが上がるまでの時間を求める
筋肉が伸びた状態で,さらに筋肉が伸ばされると,筋肉が傷つくことがあります。これに関係して,からだには筋肉が伸びた状態で,けんに力が加わってさらに伸ばされる状況になったとき,筋肉を縮める反応がみられます。病院では,このはたらきに問題がないか調べる検査があります。
注意!! 実際には実験しない。専門の知識をもたない人が実施すると,けがをする可能性がある。
ポイント
座った状態でひざをたたいてから,あしが上がるまでの時間の平均を求める。
この実習は,結果の表を参考に考察しましょう。
ポイント
刺激を受けてから反応するまで,どのような信号の経路が考えられるか。
「実験A」で求めた平均値と「実習B」の平均値を比べてみましょう。
「実験A」で考えたモデルと「実習B」で考えたモデルを比べて,話し合ってみましょう。
病院で「実習B」の検査をしたことがあるけど,あしがむずむずして,なんだか勝手にあしが動いている気がしたよ。
「実習B」の反応は目で見ていなくても起こります。目からの刺激は関係がないということですね。
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探究7 結果から考察する
実習B 平均反応時間は約0.09秒である。
平均反応時間は(a)に比べ(b)が短い。
実験A
① 手がにぎられたことを感覚器官が刺激として受け取り,刺激を信号に変える。
② 信号が感覚神経を通して脳に伝わる。
③ 脳が「手をにぎられた,にぎり返せ」と判断して信号を出す。
④ 信号が脊ずいと運動神経を通って,手に伝わる。
⑤ 手をにぎる。
実習B
① ひざがたたかれたという刺激を受け取る。
② ももの筋肉が縮んで,あしが上がる。
● 実習Bでは,ひざがたたかれたことを脳で判断せず,考えていないので,刺激から反応までの時間が短いのだと考えられる。
図34 探究7の考察例
ふり返り
実習Bのモデルは,自信がないけど,図34(b)のように考えました。
あしが勝手に動く気がするから脳で判断してないと思う。あしだけで判断できるのかな?
科学の決まりの中には,一般的な印象とちがっていても真実だということがあります。できごとをうまく説明できるモデルなら,自信をもちましょう。
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8 意識して起こす反応
感覚器官で受け取られた刺激は信号に変えられ,感覚神経を通して中枢神経に伝えられる。中枢神経は,伝えられた信号に応じて,「どのように反応するか」を運動神経を通して運動器官に命令する❶。
探究7実験Aでは,図35のようなしくみで,刺激に対する反応が起こる。片方の手がにぎられると,その信号が感覚神経を通して脳に伝わる。すると,脳はその信号に対してもう片方の手を「にぎれ」と命令し,その信号が運動神経を通してもう片方の手に伝わる。
①手の皮ふがにぎられた刺激を受け取る。
②刺激(信号)が感覚神経を通して脳に伝わる。
③脳はにぎられたと判断する。
④脳が,手に「にぎれ」という命令(信号)を出す。
⑤脳の命令が運動神経を通して手の筋肉に伝わる。
⑥手をにぎる。
① 一人㋐がものさしの上を持ち,もう一人㋑がものさしの下の先端に手をそえる。
② ㋐が合図をせずにものさしを落とす。㋑はそれを見てものさしをつかむ。
③ ものさしが落ちた距離をもとに,下の表を使って,何秒で反応が起こったか求める。
図36 意識して起こす反応にかかる時間を調べる実験(探究7実験Aの別法)
❶ このように信号が伝わるので,刺激を受けてから反応が起こるまでに,どんなにすばやく反応しようと思っても,わずかながら時間がかかる。また,運動のときにみられる,ボールを打ち返すといったすばやい反応のほかにも,勉強のときにみられる,問題を見て答えを考えるといった,判断に時間のかかる反応もある。
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9 反射
探究7実験Aのように意識してからだを動かす場合とは異なり,実習Bでは,あしを上げようとは意識していないのに瞬間的にあしが上がる。このように,刺激に対して,意識とは無関係に決まった反応が起こることを【反射】という❶。
図37の反射の例では,感覚器官からの信号が脊ずいに伝えられると,脊ずいから直接,運動器官に命令が伝えられる。無意識にあしが上がったあとに,その信号は脳へも伝えられるので,反射が起こったあと,わずかに遅れてひざがたたかれたと感じられる。
① 「ひざのけんが伸ばされた」という刺激が受け取られ,信号に変えられる。
② 信号が感覚神経を通して脊ずいに伝わる。
③ 脊ずいが,すぐさま「筋肉を縮めろ」という命令(信号)を出す。
④ 命令が運動神経を通して,ももの筋肉に伝わる。
⑤ あしが上がる。
(⑥ 脳にも刺激が伝わり,「ひざがたたかれた」という感覚になる)
① 手の皮膚が熱の刺激を受け取り,信号に変える。
② 信号が感覚神経を通して脊ずいに伝わる。
③ 脊ずいが,すぐさま「手をはなせ」という命令(信号)を出す。
④ 命令が運動神経を通して,手の筋肉に伝わる。
⑤ 手をはなす。
(⑥ 脳にも刺激が伝わり,「熱い」という感覚になる)
❶ 反射は,意識して起こす反応に比べて,刺激を受けてから反応するまでの時間が短い。そのため,危険からすばやく身を守ったり,からだのはたらきを調節したりするのに役立っている。一方,反射には,すばやい反応だけではなく,ゆっくりした反応もある。たとえば,食物が消化管に入った(刺激)ときに消化液が出る(反応)などである。
ニュース
※科学ニュースの更新は2025年4月を目処にはじまります。
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