※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.28>
2|物体にはたらく力と運動
1 斜面上の物体にはたらく力
自転車で坂を下るとき,ペダルをこがなくても自転車はだんだん速くなる。このとき,自転車にはたらく力がだんだん大きくなるわけではなく,自転車には一定の力がはたらいている。図5のように考えると,斜面上にある物体は,斜面のどの位置にあっても,はたらく力は変わらない。
考え方①
長い斜面のA,B,Cで,物体がすべり落ちようとする力の大きさをはかった結果,値は同じだった。
考え方②
斜面上の物体にはたらく力を作図すると,物体には斜面に沿った一定の力①しかはたらいていないとみなせる。つまり,台車の運動する方向にはたらく力はどこでも一定である。
図5 斜面上の物体にはたらく力
図1と同じ写真で考えてみます。このように運動する物体の場合,それぞれの瞬間に,どのような向きの力がはたらいているでしょうか。図5「考え方②」を参考に分力を考えてみましょう。
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2 運動の向きに力がはたらき続けるときの物体の運動
図5のように,斜面上にある物体には,斜面の向きに一定の力がはたらいている。一定の力がはたらき続けるときの物体の運動について,どのように科学的に探究できるだろうか。
探究5 斜面を下る台車の運動
斜面を下る物体に一定の力がはたらいているのはわかった。確かに,速くなった物体に同じ力がはたらき続けるだけで,物体はさらに速くなるよね。
図7から,斜面上の物体がだんだん速くなっていることがわかるね。
斜面を下る物体の速さの変化のしかたには,どのような決まりがあるか。
だんだん速くなるときの速さの変わり方の決まりということだね。
それぞれの考えを,グラフで表現してみよう。
速さの増し方には限度があるんじゃないかな?
p.28図5をもとに考えると,台車に一定の力がはたらくとわかるね。
物体にはたらく力が小さいときと,大きいときで結果を比べよう。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.30>
準備
凸力学台車,記録タイマー,記録テープ,分度器,斜面用の板(長さ1.5mくらい),台(高さ15cmと20cmにできる木片など),クランプ,はさみ,のり,方眼紙
実 験 A 斜面の角度が小さいとき
1.装置を組み立てる
まず,斜面の長さ程度に切った記録テープを記録タイマーに通す。次に,台車を斜面の上部に置き,記録テープを台車にとりつける。
2.運動のようすを記録する
記録タイマーのスイッチを入れてから,そっと手をはなして台車を運動させる。台車が斜面を下り終わったら,記録タイマーのスイッチを切る。
ポイント
台車を持たずに記録テープを持って支える。次に,記録タイマーのスイッチを入れてから,一瞬おくれて記録テープをはなすようにする。こうすると,打点が重なり合う部分をわずかにすることができる。
実 験 B 斜面の角度が大きいとき
斜面の角度を9°くらいにして,実験Aと同じように台車の運動のようすを記録する。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.240>
基本操作 記録テープから運動を調べる方法
p.27「探究4」から,記録テープの打点の間隔は,記録テープを引く手の動きが速いときほど長くなることがわかる。運動の変化をくわしく調べる場合,次のように記録テープを処理する。
記録テープの間隔は,東日本と西日本で異なります。これは交流の周波数を利用しているためです。
① 0.1秒ごと(5打点または6打点ごと)に記録テープを切り分け,最初の打点の方から順に方眼紙にならべてはりつけていく。
このとき,1つ1つの記録テープの長さは0.1秒間に手が運動した距離を表す。すると,切り分けた記録テープが長いほど速さが大きいことを示す簡単なグラフになる。
ポイント 打点が重なり合う部分は捨て,打点を区別できる点から使う。
記録テープが長いほど速さが大きいことを示すので,速さの変化がわかります。
② はりつけた0.1秒ごとの記録テープの長さを方眼紙の目盛りから読み取り,それぞれの速さを計算する。
〔計算例〕区間アの場合の速さ
1.2cm÷0.1s =12cm/s
計算結果をもとに,横軸に時間,縦軸に 速さをとったグラフを作成することも できます。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.241>
基本操作 台車と記録タイマーの使い方
① 記録テープを適当な長さに切って記録タイマーに通し,運動させる物体に取りつける。
② 記録タイマーのスイッチを入れて記録テープに点を打たせながら,物体を運動させる。
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ポイント
実験AとBで,0.1秒ごとに運動が記録されたテープを切り分け,切り分けたテープを方眼紙にならべてはりつける(方法は→p.240)。
ポイント
- 台車の速さはどのように変化するか。
- 斜面の角度が大きくなると,台車の速さの変化のしかたはどのように変わるか。
斜面の角度を大きくすると,何が変わるのかな。
図8から考えると,斜面の角度を大きくすれば,台車にはたらく重力の「斜面に沿った方向」の分力を大きくすることができます。台車にはたらく力を大きくすれば,速さの変化の増し方の決まりを見つけられますね。
台車にはたらく重力を分解すると,斜面に沿った方向の分力を求めることができるんだね。
この考えだと,台車にはたらく力が一番大きくなるのは重力の向きに落ちるときだね。
物体を重力の向きに落としたときの運動は,図9のような実験装置で調べることができます。砂袋を1mくらいの高さから落としましょう。
物体が鉛直下向きに落下するときには,最も大きな力がはたらくね。同じ物体を斜面に置いたときと比べて,速さはどう変化するのかな。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.32>
探究5 結果から考察する
図10 探究5の結果例
- 台車に一定の力がはたらくとき,台車が斜面を下る速さは,時間とともに一定の割合で増す。
- 斜面の角度を大きくしたとき,斜面に沿って下向きに台車にはたらく力が大きくなり,速さの増し方も大きくなる。
速さの増え方が時間とともに増すわけではなく,一定の割合で増すんですね。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.33>
斜面上にある物体には,斜面に平行で下向きの一定の大きさの力がはたらき続けている。一般に,物体は,運動と同じ向きに一定の大きさの力がはたらき続けると,一定の 割合で速さが増加する(図11)。また,斜面の傾きが急になるほど,斜面に平行で下向きの力が大きくなる。このとき,物体にはたらく力が大きくなり,速さの増し方も大きくなる(図12)。
斜面の角度を90°にしたときは,物体には鉛直下向きの重力だけがはたらき,落下する(図13)。このように,物体が鉛直下向きに落下する運動を自由落下という。自由落下は,斜面を下る物体の運動と同じように,一定の割合で速さが増加する運動である。
発展 速さと移動距離
探究5の結果から得られた「時間 − 速さ」のグラフは,図12のような比例のグラフになる。これに対して,「時間 − 移動距離」のグラフを作成すると二次関数のグラフになり(下図),時間が経つほど一定時間の移動距離が長くなっている。このことは,図11の球の運動において,画像に記録された球の間隔が時間とともに長くなっていることを示している。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.244>
資料 だんだん速くなる運動を体験する
一定の力がはたらく物体がどのように運動するか確かめるには,右のような実験もあります。台車に一定の力がかかっていることは,ゴムひもの伸びでわかりますね。
台車を一定の力で引いてみたら,台車がどんどん速くなって追いつけなくなりました。
つまり物体に一定の力がはたらき続けるだけで,物体はだんだん速くなります。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.245>
資料 重いものは速く落ちるか?
●ガリレイの自由落下の実験
重い物体と軽い物体を同じ高さから同時に落下させると,どちらが先に地面に着くでしょうか。16世紀末,イタリアの科学者ガリレイは,それまで信じられてきた「重い物体ほど速く落ちる」という考えを科学的な実験によってくつがえしました。
ガリレイは斜面で鉄と木の球を運動させる実験を行いましたが,後の時代,イタリアのピサの斜塔のてっぺんから球を落下させて同時に着地することを示した話としてよく語られるようになりました。物体は,質量にかかわらず同じように落下するのです(右図(a))。
●真空中で鉄球と羽毛を落下させる実験
私たちは,日常経験から,鉄球よりもはるかに軽い羽毛が,ゆっくり落下することを知っています(右図(b))。といっても,ガリレイがまちがっていたわけではありません。ガリレイが明らかにしたことは,空気の抵抗力など重力以外の力がない場合(あるいは無視できるほど小さい場合)になりたちます。
右図(c)のように,真空に近づけた容器の中で実験を行うと,羽毛も鉄球も同じように落下することが確かめられます。
羽毛を落下させた場合は,受ける空気の抵抗力が鉄球に比べて非常に大きいため,ちがいが生じたのです。(羽毛は空気中で等速直線運動をしますが,その理由はp.246の資料「ここにも等速直線運動」を参照)
発展
重い物体ほど大きな重力を受けるので,速さの増し方は大きくなりそうだが,そうならないのはなぜだろうか。17世紀末にその理由を明らかにしたのは,ニュートン(イギリス)であり,次の式の中に示されている。
$$ 単位時間あたりの速さの変化 = \frac{力の大きさ}{質量} $$
この式が示す運動の法則の一つは,物体が受ける力が大きいほど速さが変化しやすい(→p.33)ことである。またそれだけでなく,「質量が大きいほど速さが変化しにくい」ことも示している。つまり,質量の大きい物体は,静止し続けようとする性質(慣性→p.37)が大きい。
重力による運動では,右辺の「力の大きさ」は重さであり質量に比例した大きさだが,右辺の分母が質量なので,右辺は一定の値になる。つまり,落下運動の場合,単位時間あたりの速さの変化は,質量にかかわらず一定である。地球上の自由落下の運動は,質量にかかわらず,1秒あたり9.8m/sずつ速くなり,この大きさは「重力加速度」とよばれている。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.34>
3 運動と反対向きの力がはたらき続けるときの物体の運動
図14は,斜面を下ってきた球が水平面上を転がって,さらに斜面を上っていくときの写真である。球が右側の斜面を上るときは,物体の速さは減少する。これは,運動の向きと反対向きの力を受けているためである。
一般に,物体が運動と反対向きの一定の力を受け続けると,運動の速さは,一定の割合でだんだん減少する(図16)。
そうか!1年生で物体に力がはたらいているかを知るときの3つの基準のひとつに,「物体の運動のようすが変わる」があったよね。これは図14などのように,力がはたらいたときの物体の運動に注目していたんだね。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.35>
4 物体に力がはたらかないときの運動
図14 で,球が斜面を下るとき,また上るとき,斜面に沿った方向に力がはたらいている。では,球がその途中の水平面を移動しているとき,球にはどのような力がはたらくだろうか。このとき,球には重力と台が押し返す力の2力がはたらいているが,その合力は0(力がはたらかない)とみなすことができる。
たとえばドライアイスがなめらかな水平面をすべるとき,ドライアイスには力がはたらかないとみなせるような状態になる( 図18)。「探究6」で,このときの運動について調べよう。
探究6 力がはたらかないときの運動を調べる
① O点からの移動距離を表したグラフ(a)をもとにして,各区間ごとの移動距離を求め,下の表に記入する。
② 表の区間ごとの移動距離と時間間隔から,区間ごとの速さを計算し,表に記入する。
③ 横軸に時間,縦軸に速さをとったグラフを右の(b)にかく。
ポイント
求めた速さは各区間の平均の速さなので,点は各区間の中間に打つ。
❶ ドライアイスが気体の二酸化炭素になり,それがドライアイスから水平面にふき出してドライアイスを押し上げることによって,ドライアイスが浮いた状態になる。このため,水平面との間の摩擦力が非常に小さくなる。
図22 等速直線運動のグラフ
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.246>
発展 ここにも等速直線運動 ─雨粒 ,スカイダイビング─
雨粒が空から落ちてくるとき,重力を受け続けて速さがどんどん増し,地上に落ちてきたときにはとんでもない速さになってしまわないでしょうか?
上空1000 mから落下した半径1 mmの雨粒の速さは,もし空気の抵抗力がなければ,エアライフルの弾丸並みの秒速140 mという速さになります。しかし,実際には,雨粒が速くなるほど受ける空気の抵抗力が大きくなり,秒速6〜7 mになったとき重力と空気の抵抗力による力がつり合います。力がつり合うと,慣性の法則により等速直線運動をするので,雨粒は秒速6〜7 m(時速21〜25km)のままで地上に落ちてきます。ただし,雨粒の大きさによってこの値は変わります。
航空機から人が飛び降りるスカイダイビングではどうでしょうか。人にはたらく重力と空気の抵抗力による力がつり合うので,やはり,途中から等速直線運動をします。ただし雨粒に比べるとかなり速く,およそ秒速50〜56m(時速200km程度)です。パラシュートを開くと空気の抵抗力が増し,秒速5〜6 m(雨粒の速さ程度)に減速したときに再び力がつり合って等速直線運動に変わります。この程度の速さで地上に降り立てば,安全であるといわれています。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.36>
図19 のドライアイスは,力がはたらき続けていてもその合力が0 と考えることができ,このとき,速さが一定で,一直線上を進んでいることがわかる。このような運動を【等速直線運動】という。
等速直線運動では,物体の移動距離は,経過時間に比例して増加する(図20)。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.37>
5 慣性の法則
物体には,運動しているときは等速直線運動を続けようとし,静止しているときは静止を続けようとする性質がある。この性質を慣性という。物体に力がはたらいていないか,はたらいている力の合力が0である条件がなりたつ場合,慣性のため,物体は等速直線運動や静止している状態を続ける。これを慣性の法則という。
図21 慣性によって等速直線運動をする例
(b)の自転車の例は,こいでいる人が力を加え続けていますよ。これは慣性の法則に当てはまらないんじゃないですか?
慣性の法則がなりたつ条件は,「力がはたらいていない」だけではありません。「はたらいている力の合力が0 である(力がつり合っている)」という条件もありましたね。自転車をこいで,自転車が一定の速さで動いていれば,この例も当てはまるのです。
❶ 実際には,物体に摩擦力や空気の抵抗力(空気中の分子が物体にぶつかって,物体の運動をさまたげる力)がはたらき,物体はやがて止まる。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.246>
資料 慣性を利用して,海王星よりはるか遠くへ
1977年に打ち上げられたアメリカの探査機ボイジャー1号は,初めて木星や土星に接近して詳細な写真を撮影し,惑星や衛星の環境について新たな発見を重ねて任務を終えました。
現在,ボイジャー1号に飛行のための燃料は残ってはいませんが,今この瞬間も太陽系の外に向かって飛び続けています。それは,大気のない宇宙空間では摩擦がないため,慣性によって,運動を続けることができるからです。
2022年9月5日現在,ボイジャー1号は地球から235億4921万km以上(157天文単位❶以上)離れたところにいます。 地球からは光が到達するのに約21時間49分かかる距離です。この距離は光年に換算すると約0.00249光年に相当します。
❶ 1天文単位=地球と太陽の間の平均距離をもとにした単位で,約1496億mである。