※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.224>
3|身のまわりの素材・技術
1 プラスチック
私たちの身のまわりには,さまざまな物質が使われている。そのなかの一部は,もともと自然にはなく,科学技術を用いてつくられた物質であり,その代表例がプラスチック❶である。
プラスチックには,図18のようにいろいろな種類がある。これらの種類によって,じょうぶさや,熱や薬品に対する強さなどの性質も異なるため,利用する目的に応じて使い分けられている。
❶ プラスチックのほとんどは,石油を原料としてつくられていて,炭素原子が無数に連なった骨格をもつ。たとえばポリエチレンの分子は右図のように表すことができる。
❷ポリエチレンテレフタラートは,ペット(PET)とよばれる。
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2 新素材
科学技術の発展によって,新素材がつくられるようになった。その素材の良さを活用して,さまざまな道具や機器が生まれ,私たちの生活はさらに便利で豊かなものになっている。
身のまわりには,どのような新素材があるでしょうか。また,現在,研究中の素材には,どのような種類があるでしょうか。調べてレポートにまとめてみましょう。
生物のつくりやはたらきを参考にした素材
生物のもっているつくりやはたらきを研究し,そのはたらきを応用した新素材などの開発が行われている。
たとえば,ヤモリのあしの裏(微細な毛のような構造があり,ガラスなどに接着する)を模倣した粘着剤が実用化されている。また近年では,金属の表面をヤモリのあしの裏のような構造に加工した素材が開発された。金属でありながらゴムのような柔軟性と接着性をもち,通常のゴムを使用できない非常に高温な場所でゴムのような素材を使えるようになると期待される。
火災の広がりを防ぐ
脱炭素社会を目指す際に,木材の利用が推進されている(→p.234)。それにともない生じる課題が,火災のときの燃えやすさなどである。それを解決するための新素材が開発されている。
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科学技術の発展により,私たちの生活はどのように変化してきたのでしょうか。身近な道具を1つ選び,その道具に関わる科学技術とその発展を調べてレポートにまとめてみましょう。
3 科学技術の発展
私たちの生活は,科学の原理や技術を応用して,豊かな生活を実現しようとしてきた科学者や技術者の成果のうえに発展している。
科学技術の発展におけるできごと(功績を果たした人物名・国名など,数字は年)
■主な科学の発見など
■主な技術の実現や発展など
表1 科学技術の発展と私たちの生活の変化
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私たちの生活はコンピュータやロボットの発達によりどのように変化しているでしょうか。調べてレポートにまとめてみましょう。
4 私たちの生活と科学技術
近年,コンピュータやロボットが発達し,さまざまな産業で役立つようになった。私たちの生活は,常に変わり続けている。
自律的に測量を行うロボット
土木工事現場に,自律歩行できるロボットの導入がはじまりつつある。この四足歩行ロボットは,凹凸の多い地形でも,歩く能力が高い。360度カメラを搭載しており,工事現場の撮影,3次元データの収集などを,遠隔操作を交えて自律的に行うことができる。今後,建設業の大きな課題である担い手の確保,生産性や安全性の向上などの効果が期待されている。
アニメーション制作をAI(人工知能)で補う
日本のアニメは世界でも人気である。ただ,30分間のテレビアニメで3,500~4,000枚の原画をかく必要があるといわれ,それにかかる膨大な時間・労力・費用が問題にもなっている。それを補うため,人の制作した2枚の原画の間をうめる画像を,自動生成する技術が開発された。首,肩などの関節のデータ,髪形や目などの部位ごとのデータをもとに,AIを使って学習と評価をくり返した結果,キャラクター全身の複雑な動きに対応し,なめらかなアニメーションを半自動で作成できるようになった。これからの活用が期待される。
5 科学技術の利用
科学技術やその利用には,長所ばかりではなく,短所が存在する。たとえば,科学技術の発達による公害や武器への利用などの問題である。
また,何が長所で,何が短所であるかの判断は人によっても異なり,状況が変われば「何が適切か」の判断も変わる。科学技術をどのように利用するか,私たちは,多様な考えをもつ人たちと話し合って決めてゆく必要がある。
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6 環境保全の取り組み
私たちの大きな課題のひとつが環境保全である。化石燃料の使用を抑制する社会構築を目指し,有害な物質を出さない再生可能エネルギーの開発や,化石燃料の効率のよい利用などに取り組んでいる。生活の身近なところでは,ごみの量を減らしたり,水や森林などの環境を守ったりする努力を続けている。
資源を効率よく利用する方法のうち,私たちの身近でとられている方法や,私たちがすぐに取り組める方法を調べてみましょう。また,その取り組みを続けるには,何が必要かも考えてみましょう。
大気汚染物質の除去
燃焼により二酸化炭素を発生させる化石燃料の大量消費は,大気中の二酸化炭素濃度の増加の一因であると考えられている。また,燃焼の際に発生する窒素酸化物や硫黄酸化物は,酸性雨や酸性霧,オキシダント❶などができる原因となる。酸性雨や酸性霧は生態系や建造物などに悪影響をおよぼし,オキシダントは光化学スモッグを発生させる。そこで,化石燃料の使用を少なくする努力や,使用しても有害な物質を出さない努力がなされている。
世界的に注目される大崎リサイクルシステム
鹿児島県大崎町は,住民・企業・行政の三者が協力してごみの約83.1%を再資源化し❷,12年連続資源リサイクル率日本一を達成した町である。住民が家庭・会社などからのごみをきれいに分別し,企業がごみを回収し,行政が制度設計のサポートや収集ごみの最終処分先を確保するという役割である。
大崎町がごみの分別とリサイクルに取り組むようになったきっかけは,1996年ごろに埋立処分場の残余年数がひっ迫したことであった。しかし,本来埋め立てるごみの80%以上の減量化を達成し,埋め立て処分場は今後約40年間継続して使えるまでになった。
❶ 工場や車などから出る窒素酸化物や炭化水素と紫外線が反応してできる複数の汚染物質。オキシダントの濃度が高くなると,景色が見えにくくなる光化学スモッグが起こる。
❷ 2022年3月29日環境省発表の2020年度時点数値。
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探究1 身のまわりの自然環境の調査
環境のちがいはどのように調べればよいのだろう。環境といっても目に見えないよね。どのようなことを調べれば環境を比べられるかな。
水が汚れているかどうかは,水に溶けているイオンなどを調べたらどうかな。
環境がことなれば,そこにすむ生物が変わってくるよ。生物を観察すればわかるかも。
どのような調査方法があるのか,資料を調べてみよう。
自分で課題と計画を立てて,調査を進めましょう。
調べることによって,環境に悪影響を与えないかにも気をつけます。
身近な地域の自然環境について,何をどのように調べたらよいか計画を立てて進めよう。
準備
マツの葉,顕微鏡観察用具,光源,セロハンテープ,計算機
1.マツの葉の気孔を観察する
① 自動車の交通量の異なるいろいろな場所のほぼ同じ高さのところでマツの葉を採取する。
② 葉をスライドガラスに固定し,斜め上から光を当て,60〜100倍で気孔を観察する。
2.気孔の汚れ率を求める❶
① 視野にある気孔のすべての数を数え,その数をAとする。
② 汚れている気孔の数を数え,その数をBとする。
③ Aに対するBの数の割合をパーセントで求め,気孔の汚れ率とする。
自動車の交通量の多い地点ほど,気孔の汚れ率が大きいことがわかりました。
❶ ここでいう汚れとは,自動車などの排ガスにふくまれる粉塵である。
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探究2 人間活動と自然の影響の調査
〔課題例1〕 プラスチックとそれ以外の物質は,それぞれの長所や短所をふまえてどのように利用されているか。
スーパーマーケットなどでの買い物に使う袋は,昔は紙製でしたが,今はポリエチレン製がほとんどです。紙とポリエチレンの袋を比べたとき,それぞれの長所や短所をあげてみましょう。
昔はガラスびんが多く使われていましたが,今はペットボトルも多く使われています。ガラスびんとペットボトルの長所や短所もあげてみましょう。
〔課題例2〕再生可能エネルギーは,それぞれの長所・短所をふまえてどのように利用していけばよいか。
化石燃料をやめて,すべて再生可能エネルギーに切りかえれば,温室効果ガスが削減できてよさそう。でも,太陽光発電や風力発電は天気によって発電量が変わって,安定した電力供給が難しい。どんな解決方法があるだろう。
化石燃料は資源に限りがあるよね。また,輸入先の状況によっては値段が上がったり,売ってもらえなかったりする可能性があるかもしれない。でも,電気が必要なときにすぐに発電できる良さがある。もっといい利用方法がないかな。
ほかにも,右のようなテーマで進めてみましょう。
1 世界人口増加への取り組み
2 少子高齢化への 取り組み
3 日本・世界の食料問題
4 環境保全の 取り組み
5 気候変動への取り組み
6 健康と福祉への取り組み
7 プラスチック粒子の蓄積
8 人工知能の利用
日本は水が豊かだといわれるし,まわりは海という地理的な特徴がある。もっと水資源を使えないのかな?農業や工業,漁業,発電…。どんなアイデアがあるのだろう?
人工知能の発達により,私たちがしていた作業をプログラムやロボットがしてくれる。この関係が発展しつづけると,人間がやってきたことはどうなるのだろう?私たちと機械のちがいはなんだろう?
日本にも世界にも,いろいろな社会問題がある。大きな問題も気になるけど,わたしはまず,わたしがすんでいる地域の問題を調べて,よくしていきたいな。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.267>
資料 水生生物による水質調査
A 化学的な水質調査
簡易水質検査試薬を使って,窒素化合物の濃度(生活排水などによる汚れを示す1つのめやす)などを調べてみよう。
B 水生生物による水質調査
水深が30cmくらい,流速が30〜40cm/sくらいの,川底にれきや小石のある瀬などで,水生生物の種類を調査する。
① 下の表の生物を見つけたら,表の各地点のらんに○を記入する。特に多い2種類の生物には●を記入する。
② 水質階級ごとに点数を合計し,最も点数の多い階級をその地点での水質とする。
③ 複数の階級で同じ点数になった場合は,右の表のように,数の少ない階級(ⅠとⅡが5点であれば,Ⅰ)をその地点の階級にする。
注意!! 先生の指示にしたがい,水の事故に十分気をつける。
*は幼虫を示す。★は汽水域(海水と河川などの水が混じり合っているところ)の生物を示す。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.231>
7 自然の恵みと災害
日本列島は南北に細長く,周囲を海に囲まれていて,地形も変化に富んでいる。また,温暖で雨が多いことから,豊かな森林が形成され,そこをすみかとする動物も多い。一方,日本列島は世界の中でも地震や火山噴火の多い場所でもある。また,台風の通り道にもなっている。このことから,しばしば大きな自然災害にみまわれる。
私たちが持続可能な社会をつくっていくためには,自然の恵みを効率よく利用し,かつ防災・減災につとめて,自然災害による影響を最小限におさえていかなければならない。
探究3 自然の恵みと災害の調査
地震や火山による現象で,わたしたちの生活に被害が出ることを学んだね。
でも,地球の活動は地下資源や観光資源も生み出して,わたしたちにとって恵みにもなった。
雨は私たちの生活に欠かせない恵みだけど,降水量が多すぎても少なすぎても自然災害になるという多様な見方ができる。
わたしのすむ地域では,洪水が起きたときに備えて,危険な地区や避難場所をまとめた地図(ハザードマップ)を配っているよ。
身のまわりで自然の資源をどのように利用しているか。自然災害に対してどのような取り組みをしているか。調べて,より適切な対応を議論しよう。
日本は水が豊かだといわれるし,まわりは海という地理的な特徴がある。もっと水資源をよりよく使えないかな?農業や工業,漁業,発電…。どんなアイデアがあるだろう?
大災害が起こったときは,地域の救急や消防といった活動もできず,住んでいる人たちの助け合いがとても重要になるらしい。平時にどんな取り組みができるのかな?
そうか,ほんとうに大変なとき,だれかが正しいことを教えてくれるわけではなく,自分やまわりの人と,そのときどきで最善の判断をしなければいけないね。
ニュース
※科学ニュースの更新は2025年4月を目処にはじまります。
- 【「秒」の定義が変わる!? 超高精度の時計の研究,本田賞を受賞】 2023年3月1日現在,時間の単位「秒」は,原子の振動数を基準とした「原子時計」により定義されています。しかし,原子時計の1000倍の精度を誇り,1秒ずれるのに300億年かかるほど正確な新しい時計「光格子時計」が発明され,いずれ秒の定義が変わるとされています。 光格子時計は,おおざっぱにいうとレーザー光の干渉によりストロンチウム原子を極小の空間に1個ずつ閉じ込め,原子同士が互いに影響を及ぼさないようにして,原子とレーザー光の共鳴周波数を精密にはかって時間を計測する時計です。 光格子時計のアイデアが提唱されたのは2001年ですが,その後実際に装置を作成・改良し,東京スカイツリーの上と下での時間差を計測して性能が確認されるなどの研究が進められており,このたび本田宗一郎氏が設立した本田財団による国際賞「本田賞」を受賞しました。 もと記事リンク
- 【文明の発達は“無駄づくり”が支えている!?】 2023年3月1日「わたしは,無駄なものをつくるプロです」と名乗る“無駄なもの発明家”による,渾身のゆるゆるものづくり入門が,子供向けの書籍になりました。 「※この本を読んでも,役に立つものはまったく作れません。ご注意ください」と出版元の紹介に真っ先に出てくるように,「インスタ映え台無しマシーン」「小銭探知靴」など,絶妙に役に立たないのに妙に興味のツボをくすぐる発明が,丁寧な解説とともに紹介されています。 すべての漢字にルビがつき,小学生でも読める表記になっていますが,発明品の仕組みには回路や抵抗,伝導など,中学校の学びも関連しています。失敗上等,ものづくりへの興味の入り口に生徒にもおすすめしたい一冊です。 『無駄なマシーンを発明しよう! ~独創性を育むはじめてのエンジニアリング~』技術評論社 2021年7月 ISBN 978-4-297-12213-3 定価1,980円(本体1,800円+税10%) もと記事リンク
- 【m-RNAワクチンの原料,実はしょうゆ会社が作っている!】 2023年3月1日新型コロナウイルスのワクチンとして一躍有名になった「m-RNAワクチン」は,40年以上前から研究が進められていましたが,mRNAをそのまま体内に投与すると免疫反応により炎症を起こすことから,ワクチンや医薬品としての実用化は難しいと考えられていました。しかし,m-RNAの構成物質であるウリジンを修飾核酸(シュードウリジンなど)に置き換えることで,免疫反応を起こさずに体内で目的のタンパク質を生産させる,効果の高いワクチンをつくることができるようになりました。 しょうゆでおなじみの「ヤマサ醤油」は,「うま味」の研究から発展して核酸関連物質を50年以上も研究・生産。医薬品原料「シュードウリジン」の生産も行っており,ワクチンの原料として現在フル稼働で世界中へ輸出を行っています。なお,シュードウリジンはしょうゆやつゆなどの製品には使われていないそうです。 もと記事リンク
- 【秋の味覚・サンマの養殖はなぜ行われていないのか】 2023年3月1日秋の味覚といえばサンマ。しかし,サンマは近年不漁が続き,価格も高騰しています。ならば,養殖して増やせないのでしょうか? 記事では日本で初めてサンマの繁殖に成功した「アクアマリンふくしま」の担当者に疑問をぶつけます。アクアマリンふくしまでは,通年でサンマを展示。水槽の中で最大8世代の累代飼育にも成功しています。 担当者によると,サンマは神経質で鱗や皮膚が傷つきやすく,温度や光にも敏感に反応します。また,胃がない魚なので,常に餌を与えていないと痩せて死んでしまいます。このように扱いが難しい上に売価が安いので,養殖が進まないのではとのこと。 何より,養殖するためには,まず自然界からサンマを捕獲する必要があります。まずは海に生息するサンマを守り,増やしていくことが大切なのでしょう。 もと記事リンク
- 【世界中の微生物が,プラスチックを分解するように進化しつつある!?】 2023年3月1日高温多湿な日本の夏に食品を安全に運搬するとき,丈夫なプラスチックは大活躍です。しかし,丈夫ゆえに分解されにくいプラスチックによる環境汚染が大きな問題となっています。 ところが最近になって,「世界中の微生物がプラスチックを食べるように進化している」可能性が示されました。 スウェーデンの研究チームが世界中の土壌や海水中の合計169ヶ所から集めたサンプルからは,プラスチックを分解する酵素が合計で3万種以上も発見され,特にプラスチック汚染がひどいエリアではより多くの酵素が存在することが報告されています。 難分解性のリグニンがきのこによって完全分解されるようになったのと同様,いずれ人間の作り出したプラスチックを完全に分解する生物が進化するのかもしれません。そうなったとき,コンビニおにぎりを安全に持ち運ぶには,今よりちょっと注意が必要になるのでしょうか? もと記事リンク 論文