※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.232>
4|持続可能な開発目標
1 持続可能な社会づくりの必要性
産業革命以降,工業が発達し,人口が急激に増加すると,エネルギー資源の大量消費がはじまった。その資源は,主に石炭,石油,天然ガスであり,気候変動など自然環境を大きく変化させている。また,化石燃料などのエネルギー資源や物質資源には限りがあり,いつかはなくなる。
このような限られた資源の中で,環境との調和を図り,地球の豊かな自然を次世代に引きついでいくために,すべての国が協力して持続可能な社会❶をつくっていくことが私たちに求められている。このような情勢を受けて決められた目標が「持続可能な開発目標(SDGs)」である。
SDGsは,企業も地域も市民も取り組むものとされています。みなさんも,できることから行動してみましょう。興味のあることを調べたり,実際に活動してみたりするといいですね。
ターゲットとは,目標を達成するための具体的な考え方や方策のことです。
たとえば,「目標7」ではこのようなターゲットが決められています。
7.1 2030年までに,安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する。
7.2 2030年までに,世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。
7.3 2030年までに,世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる。
7.a 2030年までに,再生可能エネルギー,エネルギー効率及び先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術などのクリーンエネルギーの研究及び技術へのアクセスを促進するための国際協力を強化し,エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進する。
7.b 2030年までに,各々の支援プログラムに沿って開発途上国,特に後発開発途上国及び小さな島の集まりからなる開発途上国,内陸開発途上国の全ての人々に現代的で持続可能なエネルギーサービスを供給できるよう,インフラ拡大と技術向上を行う。
❶ 「持続可能な社会」とは,豊かな環境が保全されるとともに,私たちが幸せを実感できる生活ができ,それらを将来の世代にも引きつぐことができる社会をいう。
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.233>
国際機関や政府,企業,市民,全ての人に目標達成のための行動が求められています。
❶ 出典:Stockholm Resilience Centre
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.269>
資料 なるか,次世代の食用肉
突然ですが,みなさんに人気の食べ物を思い出してみましょう。焼肉,鶏とりの唐揚げ,ハンバーグ…,肉が挙がることが多いのではないでしょうか。しかし,持続可能性の観点から,肉を食べる習慣を考え直す必要があるかもしれません。
●植物を肉の代わりに
代用肉とよばれる食品があり,図(a)の例では,ダイズなどの植物に由来するタンパク質を肉に似た食感を得られるように加工してつくられます。
代用肉は持続可能性の点で以前から注目されている食品です。それはなぜでしょうか。従来の畜産の方法では世界人口を支える持続可能性はないと心配されています。たとえば,食用肉の代表的な畜産動物であるウシは,主に植物からなる飼料で育てられて,食肉として出荷されます。このとき,食用肉(ウシの体重あたり約40%)1kgを得るのに,約25kgもの飼料が必要と試算されています❶。このことから,私たちが畜産動物より植物を優先して食べれば,食料が増えることになり持続可能性の高まる解決策の一つだと考えられているのです。 私たちが植物中心の食事に切りかえると,一見タンパク質が不足すると思えるかもしれません。しかし,ダイズやヒヨコマメの種子のようにタンパク質を多くふくむ植物性食品があり,それらもバランスよく摂取すれば問題はありません。ただ,肉を食べる満足感を得たい人もいます。代用肉が肉に似た食感を得られるようにくふうされているのはそういった効果もあります。
●昆虫が候補にあがってくる
従来の畜産に代わる解決策として,昆虫も注目されています(図(b))。昆虫は短期間で成長し,タンパク質を豊富にふくみます。たとえばコオロギであれば,食用部分(コオロギの体重あたり約80%)1kgを得るのに,必要な飼料は約2.1kgと試算されています。地域によっては,伝統的に昆虫をおいしく食べる文化が根づいており,今後食べやすい種類が品種改良でつくられるかもしれません。
●食用肉を工場でつくる
別の方法も検討されています。動物の筋肉の細胞を培養液(養分をふくむ液)の中で人工的にふやすことで,食用の「培養肉」を生産する技術が開発され,一部の国では生産と販売がはじまっています(図(c))。畜産動物ではない食用肉が得られ,さらに,家畜の飼育に比べて広大な農地を必要としない,同じ量の食用肉がより短い期間で得られるといった利点があり,発展が期待されています。
いずれもまだ課題は多いのですが,私たちの食生活を変えるかもしれない技術です。
❶ 出典: Arnold van Huis,Potential of Insects as Food and Feed in Assuring Food Security, Annual Reviews, 2013 および,Barbara J. Nakagaki, Gene R. Defoliart, Comparison of Diets for Mass-Rearing Acheta domesticus (Orthoptera: Gryllidae) as a Novelty Food, and Comparison of Food Conversion Effi ciency with Values Reported for Livestock, Journal of Economic Entomology, 1991
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.234>
2 脱炭素社会
現在の私たちが,二酸化炭素などの温室効果ガスを完全に排出しないように生活することはできない。そのため,二酸化炭素の排出を減らしつつ,排出した二酸化炭素を回収して,実質的になくすことを目指している。この活動,またはこれを達成した状態を【カーボンニュートラル】とよんでいる。脱炭素社会とは,人間活動による温室効果ガスの排出量を実質的に「ゼロにする」ことを達成した社会である。
脱炭素社会へ取り組むようになった原因のひとつに,地球温暖化の深刻さがある。地球温暖化が進むと,大きな台風の頻発や水不足,それにともなう食料不足などが起こるといわれている。世界各国は脱炭素社会への取り組みを進め,化石燃料に頼りすぎている現状を見直す必要があると考えている。
これまでの社会で重視されていたように,エネルギー効率を高めたり,化石燃料の使用をおさえたりすることが,脱炭素社会の実現と一致します。
脱炭素社会をつくるために注目されているのが,植物のはたらきである。植物は,二酸化炭素を吸収してからだをつくるので,森林を増やせば,人間活動で発生した二酸化炭素をより多く吸収することができる。 また,化石燃料の使用量を減らして,木を燃料としたバイオマス発電などを活用することは,植物のからだに一度たくわえられた炭素を,単に大気中にもどすことになるので,実質二酸化炭素は増えていかない。
図24 カーボンニュートラルの考え方
木材を家具や建築材料などに使うと,炭素を木材のからだの中にとどめたまま利用することになるので,大気中に二酸化炭素は増えていかない。そのため,脱炭素社会では,木材の利用が重要になる。日本には木材利用に育ててきた森林が多いが,さまざまな要因で十分に利用できていない。この問題を解決するため,デジタル化,省力化などの対策が進められている。
図25 植物を増やす・利用する
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.235>
太陽光・風力発電は天気に発電量が左右され,電力を安定して供給することが難しい。そのため,火力発電や原子力発電で補う必要がある。また,このとき出力を調整しやすい火力発電が重要になる。このように,地球環境に配慮しながら,経済的・長期的に各発電の特徴を生かして,そのときの最適な解決方法を探していかなければいけない。
図26 発電のベストミックス
ベストミックスとは,複数の手段を組み合わせて最も効率的な解決策を得ることです。エネルギーの場合は,火力発電・原子力発電・太陽光発電などの手段をバランスよく組み合わせることになります。
日本全体の二酸化炭素排出量の約2割をしめるのが自動車などの運輸である。その対策のひとつとして考えられているのが,電気自動車や燃料電池(→p.158)自動車である。これらに再生可能エネルギーで発電した電気などを使えば,二酸化炭素排出量の削減になる。ただし,再生可能エネルギーの生産にも限界があること,電気自動車につむ二次電池(→p.158)は高額であること,燃料の補給場所が少なく不便であることなど,さまざまな課題もある。発電のベストミックスと同様に,従来の自動車もふくめて,状況に応じた柔軟で多様な解決方法を検討する必要がある。
図27 電気自動車の活用と課題
節電
暮らしに木を取り入れる
徒歩・自転車・公共交通機関の利用
食品ロス削減
図28 脱炭素社会を目指すための行動例
※このウェブページは中学校理科3年の学習内容です。<3年p.236>
人間活動で変化してしまった自然環境を回復させるためには,自然の再生力を最大限に引き出すことが大切である。生息数が減ってしまった生き物を人工的にふやしたり,姿が見られなくなった生き物をほかの地域から持ちこんだりしても,もとと同じ環境にもどることはない。自然とすみついた生物がたがいに関わり合い,時間をかけて豊かな生態系を形成するのを待つのが適切である。 青森県弘前市では,休耕田を活用して人工の池(だんぶり池❶)をつくる活動に取り組んでいる。池は,水の流れや水温,水深が一様にならないようにくふうし,それぞれの環境を好む多様な動植物が生息できるようにしている。その結果,青森県の絶滅危惧種に指定されているハッチョウトンボやハラビロトンボをはじめ,約40種類のトンボが確認された。また,ホタルやクワガタムシなどの昆虫やサンショウウオなどの両生類,メダカ,四季折々の植物などを観察することができ,市民の憩いの場にもなっている。
図29 環境保全の取り組み例①
名古屋市南西部の「藤前干潟」は,潮が最も引いたときに238ヘクタール(東京ドーム50個分)にもなる広大な干潟であり,多様な生物が生息する。また,世界各国からの渡り鳥の重要な中継地であり,春や秋にはシギ・チドリ類などが訪れる。 20世紀終わり,名古屋市は人口が増え続けた結果,ごみの量が非常に増え,藤前干潟はごみ処分場の候補となっていた。しかし,干潟の保全を求める市民の声が高まり,干潟の埋め立てが中止された。名古屋市は,平成11年2月「ごみ非常事態宣言」を発表。市民・事業者・行政が協力してごみを減らすことを呼びかけ,ごみ減量に成功した。市民の努力によって守られた藤前干潟は,国際的に重要な湿地として平成14年11月にラムサール条約に登録された。
図30 環境保全の取り組み例②
❶ 「だんぶり」とは,青森県津軽地方の方言で「トンボ」を指す言葉
ニュース
※科学ニュースの更新は2025年4月を目処にはじまります。
- 【奄美大島,徳之島,沖縄島北部及び西表島,世界自然遺産登録へ】 2023年3月1日鹿児島県の奄美大島と徳之島,それに沖縄県の沖縄本島北部と西表島にある森林などが,7/26,新たに世界自然遺産に登録されました。 アマミノクロウサギ,ヤンバルクイナ,イリオモテヤマネコなど,国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに記載される絶滅危惧種が95種も生息し,独自の生態系が残る,生物多様性の保全において極めて重要な地域であることが評価されました。 候補地となってから18年。生態系を守るために多くの人がたゆみなく努力してきたことがついに実りました。世界の宝と認められた自然を,未来へ引き継いでいくための大きな一歩といえるでしょう。 もと記事リンク