「論文」と聞いて,どのようなイメージをもつでしょうか?難しそう,マジメそう,中学生にはまだ縁がない…。たしかに,世の中の学術論文の99%は形式にのっとった,きわめて難解な文書であることは間違いありません。しかし,だからこそ,想像を絶する内容・形式のものが存在します。今回は,そんな目を引く論文を紹介していきましょう。
現代の自然科学では,研究のすべてを1人でこなすことは稀であり,必然的に,その研究をまとめた論文の著者も,複数人が名前を連ねるようになっています。その場合でも,著者は数人~多くても十数人ほどに収まるのが一般的なのですが,最多記録は2015年のヒッグス粒子質量の測定論文で,なんと5154人に及びました。これは,大規模な実験施設を用いて膨大な量の実験データを得る必要があったことに加え,統計学的な誤りを防ぐため,2つの国際チームがそれぞれ個別に研究を進め,相互にチェックしながら共同発表をしたことが背景にあります。なお,最近でも,GoogleのAI「Gemini 2.5」に関する論文で,著者が3295人に達したことが話題となりました。
結果的にですが,“猫が書いた”ことになってしまった論文もあります。1975年,アメリカの物理学者ヘザリングトンは,飼っていた猫『チェスター』の父親名『F.D.C.ウィラード』を共著者に加え,論文を投稿しました。この論文は正式に受理されましたが,後に猫の足跡が署名として押され,正体が明かされたという経緯があります。なお,猫を共著者に加えた理由は,“うっかり複数形で書いてしまった論文を1から書き直すのが手間だったから”だそうです…。
本文がなんと0文字という論文も存在します。アメリカの心理学者デニス・アッパーは,“書けない症状の自己治療失敗”をテーマに,書くことができないという症状を自ら治そうと試みたものの失敗した,という内容で,本文が0文字の論文を発表。査読※1では『欠陥なし』と評価され,心理学分野で現在までに100回以上引用されています。なお興味深いことに,本文が0文字という論文はもう1本存在します。言語学というまったく別の分野で執筆されたものですが,そちらも正式に査読を通過し,世に発表されています。
※1 内容に問題がないか確かめるため,他の研究者によって行われる論文のチェック。
原寸大のブラックホールの図を掲載したプレプリント※2もあります。2020年に行われたある研究の結果では,地球の5倍の質量をもつブラックホールの直径が9cmであることが算出され,A4用紙に収まる9cmの原寸大の図(真っ黒な円)が添えられましたが,これは正式な論文では掲載が見送られました。
※2 正式に学術雑誌に掲載される前段階にある,論文の下書きのようなもの。他者が読むことが可能。
以上,さまざまな特徴的な学術論文を紹介してきましたが,いかがだったでしょうか。特定の研究分野に興味・関心をもつことは,もちろんたいへん素晴らしいことですが,その公式発表の場となる論文という存在そのものを深く掘り下げてみるのも,ときにはよいかもしれませんね。
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